<なぜ遺書は切り取られたのか>


 以前書いた過去記事「バラバラ殺人=鉄平・リナ殺人ではないか?」に色々とご指摘を受け、考え直してみました。
 やはり「バラバラ殺人=鉄平・リナ殺人」と読んだ上で、圭一の遺書からこの三行部分を切り取るのは難しいですね。


 というわけで改めて考えてみました。


 罪滅し編がレナがKOOL化した編で、鬼隠し編が圭一がKOOL化した編だったと考えます。孤立し仲間との対立を深めてゆく上での両者の足取りはほぼ同一と見ていいでしょう。
 ……で。罪滅し編において、大石はスクラップ帳にコロッと騙されています。
 富竹の死亡時にも怪しい薬物の介在を信じていた大石ですから(まああの死に方見せられた後じゃ当然なんですが)、レナの「自分は狙われている」「白いバンがつけてくる」とかいう訴えや、レナが失踪した事実、それに関連した園崎の不自然な動き(葛西のレナ訪問&捜索、及び、それとは別に魅音がレナを探させたものと思われる本家からの勅令)、これらの事実を総合し、さらに長年感じていたきなくささやら今年で定年という焦りやらを理由に、大石は妄想に取り付かれたレナのトンデモ説に飛びついてしまいます。
 まあ、弁解の余地があるとはいえ刑事としてあるまじき愚行のようにも見えるのですが……この構図を、同様に鬼隠し編にも当てはめてみますと。


・圭一から「つけられている」「白いバンに轢かれそうになった」という訴えがある
・同じく、「友達からのさし入れに針が入っていた」という訴え
・死亡前の圭一から「オヤシロ様はいると思います」という謎の電話、直後音信途絶
・電話ボックスで喉をかきむしり意識不明の前原圭一が発見される
・自宅にはクラスメート二人の撲殺体
・搬送先の病院で圭一死亡


 これだけの条件が揃えば流石に、大石も「本当に何かあったんだな」とは思うでしょう。
 (実際には何もなくてほぼ圭一の被害妄想だったわけですが)
 で、圭一は両親に意味ありげに「自室の壁掛け時計」の事を話しています。
 恐らくそれを聞き出したのは大石でしょう。
 遺書の第一発見者が大石となるわけですが……発見された遺書からは、件の三行部分が切り取られています。


   バラバラ殺人の被害者を調べてください。生きています。
   富竹さんの死因は未知の毒物によるもの。
   証拠の注射器はこれです。


 で、貼り付けられていたのは恐らくマジック。
 この部分を切り取って(この部分だけを切り取って)メリットのある人を考えたのですが…やはり大石しかいないと思われます。
 なぜなら、見方を変えると、


   私、前原圭一は命を狙われています。
   なぜ、誰に、命を狙われているのかはわかりません。
   ただひとつ判る事は、オヤシロさまの祟りと関係があるということです。
   レナと魅音は犯人の一味。
   他にも大人が4〜5人以上。白いワゴン車を所有。


 …遺書に残されているのは、大石にとって都合のいい事ばかり。そして、


   バラバラ殺人の被害者を調べてください。生きています。
   富竹さんの死因は未知の毒物によるもの。
   証拠の注射器はこれです。


 …削除されたのは、大石が「そりゃあり得ない」とハッキリ解っている事ばかり。
 (バラバラ殺人の犠牲者は確かに死んでるし、しかも個人的な友人でもあった)
 (注射器とか言ってマジックが貼り付けられてる)
 削除者が例えば入江であれば、バンのくだりも消すでしょうし、(圭一宅にやってきた“監督”他数名の車は多分診療所の車)
 あるいはレナや魅音であれば、レナと魅音は犯人の一味というくだりも消すでしょう。



 …で。罪滅し編をやった後もずっと私はここで引っかかっていたんですが、(←言い訳)
 「注射器はこれです!」とか言ってマジック貼り付けられてたら普通、「ああこいつ頭がトンチンカンになっちゃってたんだな」とか判断して遺書信用しないのが当然の対応だと思うじゃないですか。警察なんだし。
 でも。遺書を切り取って公表したのは大石くらいしか考えられないわけです。
 つまり大石は、圭一がおかしくなってた事をちゃんと把握しながら、あえて作為的に信憑性を高める修正をした上で、遺書を公表したという事になります。
 …なんでこんな事するんだろ?ってのが今ひとつ理解できなかったわけなんですが、――各編でうかがえる大石の“執念”を考慮に入れると、そうおかしくない事なのかも知れないですね。


 罪滅し編で明らかになりますが、大石は事件の20年後まで捜査を継続していました。もう80過ぎの老人のはずです。
 暇潰し編ラストでも、退職後の身でありながら捜査への意志を燃やしています。
 また、事件のせいで友人を失ったり、後輩を失ったりもしているわけです。


 鬼隠し編においては、釣り餌に用いたとは言え、助けを求めてきた圭一を死なせる結果に終わっています。
 毎年の怪死事件の失踪者の周囲を嗅ぎ回りながら、怪死の発生・失踪を抑止できなかった大石です。
 昭和58年、圭一と連絡を密にし、自分の読み通りの手ごたえを感じていた大石にとっては(まあその読みに関しちゃ罪滅し編同様にハズレなんですが)、圭一を死なせてしまったのは……やはり大きな負い目となったのではないでしょうか。


 で、圭一の残した遺書は一部に異常の発症を匂わせるものでした。
 ただ、圭一と連絡を取っていた大石には、圭一の言っている事が(リアルだったためか)ただの被害妄想とは思えなかったとします。
 そして、暇潰し編でも「このままこの事件を終わらせてはならない」と強く語っているように……この事件が「圭一が精神異常を発症してクラスメートを殺害、自殺」という結末を与えられ捜査の余地をなくすのを避けるために、例の三行部分を切り取ってから…証拠として提出したのではないでしょうか。


 一応。この考えにはもう一つ、根拠がありまして。
 首掻きむしって死んだ圭一が、遺書の内容から判断されて「頭おかしくなって人殺して自殺」って事になってしまうと…それと連動して“その前の事件”も片付けられてしまう可能性が出てきます。
 前の事件っつうのは、とんでもない怪死を遂げた富竹と、そして鷹野の死についてです。
 つまりこうです。


・遺書の内容から言って、圭一は頭おかしくなって人殺して自殺したんだろう
・じゃあ先ごろ同じ死に方をした富竹も頭おかしくなって人殺して自殺したんだろう
・一緒にいた鷹野は富竹に殺されて山奥に放置されたって事だろう
・そうすると死体の死亡推定時刻がおかしくなるがこれはまあ鑑定のミスなので修正してしまえ
・一件落着


 …と(多少乱暴ですが)こうなって、圭一の死が「異常者の単独犯行」で片付けられてしまうと、富竹・鷹野の死にまでその影響が波及し、“例年の怪死事件と同日に発生し、また中でも一際とんでもない怪死を遂げた事件であるにも関わらず”、圭一のケース同様に「異常者の単独犯行」で片付けられてしまう可能性が出てきます。
 これは大石にも見過ごせないでしょう。


 …ゆえに、「事件をここで終わらせない」ため、大石があえて遺書を切り取り一連の捜査の命脈を保った可能性が考えられます。


 …。うん、まあ年単位の昔から散々言われてる説なんですけどね(笑)。
 何を今更とか言うな。傷つくから。とても傷つくから。


<おまけ>

 この記事を書くにあたり、他の考察サイトさんを巡って色々な考察を拝見していたのですが、ある記事を見つけ、あはは面白い推理ー、でもどっか見覚えのある説だな、はてどこだっけ……などと思いつつ読んでいたら、文末にこんなリンクが。
「参考記事:“ひぐらしのなく頃に推理”oramuda」


うちかよッ!!


 OTL


ごめんなさいごめんなさい罪滅し編をプレイして考え変わりました。
やっぱり三行部分は大石が切除したんだと思います。上記の経緯を経て。