罪滅し編の奇妙さ>


 皆殺し編を終えてみると、罪滅し編に奇妙な点がある事に気付くわけです。
 冒頭の梨花が語るように、罪滅し編の他編との相違点、特徴を探して抜き出してみると…。


・レナが疑心暗鬼に囚われおかしくなる。
・祭での挙動から輪から少し距離を置いた人物とみなされ、大石がレナに接触する。
・鷹野がレナに接触、茨城での症状を聞いた上でスクラップブックを手渡す。
・山狗がレナを尾けている。
・校舎占拠事件が起こる。
・大災害の発動日が暇編、祟編などとと比べると遅い。


 ここで注目したいのは「山狗がレナを尾けている」という点です。
 いやそれってただの追跡妄想だったんでしょ?と思うかもしれませんが、圭一が小此木造園らしきバンを確認し、加えて小此木と思われる人物から質問を受けています。
 “兄ちゃん、レナ(の服装をした人物)がこっちに来るのを見なかったか”と。
 始めから怪しい連中だと思っていた圭一が少し引いた目で見ると、男は少し気になっただけ、と言い、バンは去ってゆきます。
 …本当に気になっただけで、休憩中の造園業者を装う山狗がこういう無駄なアクションを取るかは少し疑問です。
 つまり…ここで罪滅し編の特徴から類推してみると。


・鷹野は図書館でのレナの態度から精神に影響の出ている重度感染者と判断した。
・鷹野はレナにうじ涌き病の概念を伝え、スクラップ帳を与えた。
・山狗をつけて様子を見た。(あるいは症状進行を見込んで疑心暗鬼を深めさせた)
・既に祭は過ぎ去り、富竹も鷹野も死んだことになっていて、作戦は進行中だったが…大災害発動のタイミングはなぜか遅れている。
・レナが大石に助けを求め、「秘密が書かれている」とスクラップ帳の存在を告げ、遅ればせながら葛西が動き、誤解した警察が動き、その混乱を抑えるために園崎が動き、手打ちとして鷹野三四所有だったスクラップ帳を受け渡す茶番にまで発展した。
・レナが校舎を占拠し、生徒達を人質に取ってガソリンを撒き立てこもった。
 圭一が投降させて事件解決。
・直後に大災害発生。


 という流れと見ることもできるわけで。
 さてこの流れの後半部分ですが、オカルティックなスクラップ帳をめぐって少女が行方をくらまし、警察や園崎が噛み合う事態になり、挙句の果てに占拠事件まで発生する。
 こういう状況を一番面白く思えるのは、スクラップ帳の持ち主以外にありません。
 何たって妄想扱いされていた自分の研究がいいように人々を翻弄するという珍しい光景が見られるわけですから。
 事件解決のすぐ後に梨花の死、そして大災害が発生したのは、もうこれ以上混乱が波及し得ない、観察しても仕方ない、と判断したためではないでしょうか。
 もちろん「園崎や警察の動きや、占拠事件が収まるのを待って大災害を起こした」と見る事もできますが…他編においての大災害の発動日には、罪滅し編のレナは疑心暗鬼を深めている段階であって、警察にも園崎にもまだ特に何の動きもありません。大災害を起こすのに別に支障などないでしょう。
 また、皆殺し編でもそうでしたが、大災害の実行に関しては警官…大石も熊谷も小宮山も構わず排除、阻止しようとした圭一もレナも魅音も詩音も沙都子もまとめて排除されています。それこそ皆殺しです。そんな強行っぷりを見せつけながら、警察やら園崎の動きやら事件の終結を考慮に入れて機を定めるとは少し考えにくいです。


 つうか、ぶっちゃけ大災害発動のタイミングは鷹野のセンスなんじゃないのか?と思うんですよ。
 鷹野は上がどうとか適したタイミングがあるとか話していますが、それはホラなんじゃねえのかと。
 要するに、梨花が殺され、その情報が政府に伝わりさえすれば、選択肢もなく、装備実験中隊に出動の予備命令が下され34号の認可が下り大災害は起こさざるを得ないわけで。つまり梨花を殺した時点で一種のハメ手が生じるわけで。タイミングに関しちゃ鷹野の上の意向が絡むのはおかしかないのですが、究極的な事を言ってしまえば“大災害発動に上の協力を得る必要はない”わけです。誰に命じられなくとも、政府は自浄作用として大災害を起こさざるを得ませんし。
 つまり。梨花を殺すタイミングってのは、状況的に考えて、実は鷹野が自分で決めてるんじゃないのかな…と思うんですね。


 またこれと全く同じことが、鬼隠し編にも言えるわけです。
 鬼隠し編においても確実に梨花は死んでおり、そして恐らくは死後に大災害が起きているものと考えられますが…その発生日というのはどちらかというと罪滅し編のそれに近いわけです。(というか暇編や祟編よりも遅い、というべきか)
 鬼隠し編において鷹野は圭一を怪死事件の話で軽く脅かします。その夜の内に富竹を始末、偽装死を果たし、指揮所に移動したものと思われます。
 連絡員富竹の始末、自身の偽装死、入江に暴走の疑いを掛ける……その為の工作なわけですが、この怪死には五年目の祟りという意味合いを込めてもいる事が鷹野の言葉からわかります。というか、まぁ毎年起きる祟り怪死というテンプレートを自身の工作にうまく利用した、という部分もあるのでしょうけど。
 で、ある日圭一の背後からバンがクラクションを鳴らしながら突っ込んできます。
 どうにかかわした圭一は田んぼにダイビングする羽目になるわけですが…。
 クラクションを鳴らしながら突っ込んでくる以上悪意はなかった、のではなく。
 単に、山狗が圭一の疑心暗鬼を煽るよう命じられ、圭一を轢こうとしたようにみせかけた、のではないでしょうか。
 そして、圭一は疑心暗鬼と、何よりもその疑心暗鬼の発生源となった“村に感じるきな臭さ”に騙され、勘違いして二人を撲殺してしまいます。
 罪編同様、きっと鷹野的には大喜びでしょう。何しろ、そのきな臭さを吹き込んで、自分を含む二人の怪死によって一層引き立てる演出をしたのは他でもない、彼女な訳ですし。




 そういや、「エッジの個」の再放送って今夜だったっけ。
 見とこう。


 皆殺しで明かされた真相に特に不満はないのですが(まあ、“真相は巨大陰謀系”とあらかじめはっきり明言されてたわけじゃないけど、少なくとも、物凄く精妙な勘違いと行き違いと複雑な裏事情のせいですべてが巨大陰謀系に見えてしまう物語、ってわけじゃあないんだな、という事は割と匂わされていたし…メタの部分で)、この如何様にも解釈の可能な物語に、物凄く精妙な勘違いと行き違いと複雑な裏事情の織り成す別の真相、みたいのを与える事って…やっぱできんのかね。
 いや、ホントに不満があるって言うんじゃないんだが。ただこの「ひぐらしのなく頃に」に関しちゃ、高精度で辻褄さえ合ってりゃ、真相が複数あったって面白いよなぁと思うだけで。