<鷹野の犠牲者はレナだけに留まらない?>


 鬼隠し編では圭一、罪滅し編ではレナがそれぞれ、奇妙な妄想に踊らされて自滅しています。
 そのきっかけは恐らくたまたま不運が続いたからとかではなく、何か明確な強制力を持つ外部的要因が絡んでいるのだろうとは思いますが……わからないのでとりあえず置いておきます。
 レナは鷹野の死を聞き、刺激的な内容のスクラップ帳を自分が預かっている事に思い至り、さらに大石から自分の周囲の人々が疑わしい事も耳にし、あれだけ仲間を信じていたにも関わらず疑心暗鬼に至り、人質を取って教室を占拠するまでの自滅街道を突っ走ってしまうわけなんですが……。


 ここでちょっと大災害前に必ず起こることを見てみたいと思います。
 入江が自殺らしき死に方をし、梨花が神社で腹を割かれて死亡。
 これらは祟殺し・暇潰し・罪滅しと起きている事例なのでたぶん、大災害前発生がガチなんだろうとは思いますが、…そもそも何でこういう事が起きるのでしょうか。
 この二件の死亡に、一つの仮説を立ててみたいと思います。


 境内にて梨花の開腹を行ったのは入江であり、入江はその後所長室に引き返し睡眠薬自殺をしてしまったのではないでしょうか。
 入江の自殺の理由は、人を殺してしまった事による罪悪感と推定します。
 なぜ入江は梨花の腹を裂くような真似をしたのか…についてですが、ここで三四が絡んでくるのだと思います。
 すなわち、三四と職場を同じくしていた入江もまた、高い知性を必要とされる医師という職業にありながら、デフォルトで村に漂っているきな臭さ、三四の(三四にとって都合のいい)緻密な研究、まことしやかなホラ話……に徐々に汚染され、三四のいくつものトンデモ話を(少しは当たってる部分もあるかもなぁ)と考えていたとしたらどうでしょう。


 で、別にそれが半信半疑であれば大した害もないのですが、そういう怪しげな研究をしていた鷹野三四は祭の夜、祭具殿に侵入するというタブーを犯した後で、忽然と失踪します。
 そして同行していたはずの富竹は首をかきむしるという怪死を遂げ、
 鷹野自身もまたやがて岐阜山中で焼死体となって発見されてしまいます。


 …ただこの富竹の死も、鷹野によって仕組まれた可能性があります。
 レナが首をかきむしり始めたのは、富竹が死亡してから……あるいは鷹野から預かったうじ涌き病の記事を読んでからです。(茨城にいたころは首をかきむしりはしなかった)
 つまり富竹は親しい鷹野によって妄想の理論体系を植え付けられた挙句、「貴方の体内に寄生虫が宿りもう保たない、今夜までの命」などと嘘を教えられ、レナのごとく掻き毟り続け、死んでしまった可能性があります。
 ただ富竹もいい大人で馬鹿じゃありませんから、意味ありげな注射を首にする(中身は無害、または大した量じゃないアドレナリンなど)などのデモンストレーションの後押しを受け、恐怖から三四の与太話を信じてしまってああいう風に死んでしまった可能性もあります。
 さらに付け加えるならば、三四の話の「信者」というのは入江や富竹のみならず、別に存在した可能性があります。
 その者達が人気のない場所で奇襲をかけ、富竹に暴行。押さえつけて注射をし、さっさと離れる。富竹は鷹野の言葉攻め(?)によってうじ涌き病の発症を信じてしまい、角材を振り回しながら首をかきむしり絶命。

 
 で、富竹の死体の前に連れてこられた入江は驚愕します。
 「ありえない、ありえない」と繰り返し口にします。
 それはなぜなら、入江はこの死に方というのを既に知っていたからです。
 入江もまたレナも目にした“うじ涌き病”に関する三四の研究を読んだ事があって、しかもそれを冷静な医師の目で、馬鹿馬鹿しい…ありえない、と判断していたからです。
 しかし目の前には記事通りの、首をかきむしり過ぎて死んだ富竹の死体。


 やがて鷹野も死体で発見されてしまいます。(ただしこの死体は本当は鷹野ではない)
 あんな死体が出て鷹野のトンデモ話が信憑性を帯びたところで、「その研究をしていた」鷹野の失踪。
 それこそ、鷹野が語る通り、御三家あたりが鷹野を隠したように入江には見えてしまいます。


 で、ここで鷹野が「信者」「潜在的な信者」達に何を吹き込んだのかを推測します。


 ・村の連中は寄生存在によって重度に支配されている
 ・いざとなったら村全員始末しないと他区域までも支配の手が伸びてしまう
 ・梨花は寄生存在の害を弱めた「オヤシロ様」の子孫(生まれ変わり)、その体内にはより多くの寄生存在が常駐しているか、あるいはその体内には寄生存在の害を弱める抗体が血によって受け継がれている


 大体こういった内容のホラを吹き込んでおいたとします。


 で。
 梨花に対して「お前は古手梨花じゃない」と言ったレナではありませんが、
 梨花の態度ってのは結構怪しい(二面性を匂わせる)ので、三四が入江他の「信者達」に語った妄言の根拠となっていてもおかしくなりません。
 大災害前夜。入江は悩みつつも、他の「信者達」と協力して梨花をさらい、腹を開き、
・体内に寄生存在がいるか確かめるか
・あるいは梨花の内臓を皆で口にするかし、(…書いててちょっと吐きそうだ)
 …理由は解りませんが、神社に放置します。
 (これは鷹野の入れ知恵=オヤシロ様の祟りを演出したい鷹野の趣味でしょう。)


 “自分達の身の安全は摂取した抗体によって護られたと信じた”「信者達」は、“もう助からない”他の村民達を全て滅ぼすため、大災害を起こしに向かいます。
 しかし入江は梨花とも親しかったため/あるいは体内に寄生存在なんていなかった事が判明し、殺してしまった罪悪感に囚われ…突発的に自殺。
 所長室に戻って睡眠薬を飲み干し、入江はそのまま死亡してしまいます。
 …そして約一日後、大災害発生。
 犠牲者1200超。
 20名ほどの行方不明者(信者達)が発生。


 安全な場所に身を隠し、自分のホラが生み出した大惨事を遠くから眺めて、笑う鷹野。


 ――以上です。
 偶然の作用とは言え、罪滅し編における三四スクラップの破壊力を考えると、結構馬鹿にできない考え方だと思います。
 マインドコントロールの併用・また研究を通じて大災害のスイッチを掴んでさえいれば、十分に実現可能な手とも言えるでしょう。
 ただ、鷹野がなぜここまで酷い事をするのかが、まったく想像できないのですが――。


 レナや圭一がおかしくなった外部的要因がわかれば、この考えももっと補強できるんですが…。
 とりあえず私が思いつくのは、レナも圭一も風邪で診療所に行った時(レナは二人を殺した後夏風邪を長引かせてたので、診療所に行った可能性があります)、そこに勤める鷹野辺りに薬をすりかえられたか何かしたのかな……くらいです。
 薬の影響で疑心暗鬼に走って、二人とも追跡妄想だの誇大妄想理論展開だのとどんどんおかしくなってゆき――とこんな感じでしょうか。



 連続怪死事件までもが鷹野の布石だったりしたら…笑えないな。



<推理以外の記事>


 本家の製作日誌について少しだけ。
 「ループが出てくると何でもありになる」て論拠で「ひぐらし」舞台へのオカルトの流入を嫌う意見が多く出たのか(まぁ推理やってる私もその意見持つ一人なんですが)、「ループは物語の謎への推理には影響し得ない」といった内容の更新がされてました。


 これは、“ループ者たる梨花はただ繰り返す世界を見てただけで、梨花は謎の多くに関係しないし無力&無知だし、また物語の謎にも真犯人にもループそのものは影響しないよ…って意味の原作者発言”と受け取っていいのだろうか?


 しかし、こうなると梨花のスタンスに問題が出てくる気がします。
 確かに梨花はあまり大した事ができてないようですが、目明し編のようにそれなりに引っかき回したりもしてるのに、それでも何も知り得ない(暇潰し編のように、自分が殺される理由が場合によって解らなかったり)ってのはどうしてなんだろう?


 例えば、罪滅し編みたく自分が殺される理由とか何日も前に知ってたら、普通予測した死を避けるはずだろって思うのに、死を回避せずそのまま突っ込んでってる。


 死因が黒こげバラバラと解り、しかも死に方から死亡日時が解る位その“状況”を把握してれば、「25日」「レナが」「学校占拠して」「ガソリンで人質もろとも吹き飛ぶ」って事くらい梨花にはわかってるはず。
 で、それがわかってるからこそ、逃亡生活を送るレナのところに注射器持ってったんだろうし、そこでレナに拒絶されたからじゃあいいよ、って捨て鉢になるのもまあ理解できる。
 でもどうして死ぬって解ってて25日学校に行ったりするんだろうか。
 レナに梨花は言います。「別の雛見沢で別のレナとうまくやる事にするわ」と。
 しかしその意図があっても、死を避けない理由にはならないと思うんですが…。
 ――例えば、警官呼び寄せて学校の周りにあらかじめ伏せさせといて、レナがナタ持って学校に忍び込む辺りで捕まえてしまえば、梨花が察知した悲劇に関しちゃ回避できるはず。


 しかしそれでも梨花はよくわからない理由でどうしても殺されてしまう。
 だから、いつもいつも殺されるのでもういいや、と思ってるのかも知れませんが……。
 でも梨花は死にたくないとも考えているんですね。(暇潰し編:赤坂への独白)


 少なくとも私だったら、自分が殺される理由と下手人くらいは全部調べて網羅してそして防ぎきろうと努力してから、それから諦める事を考えると思います。自分が子供であろうが何だろうが。
 幾百の死の山脈を中途半端な態度で越えてゆくように見える梨花は、一体何につまづいてるんだろ? と思ってしまうわけなんですが……。