魅音は本心を隠している?>


 罪滅し編で仲間という概念の定義についてきちんと語ってくれる魅音ですが、
 実は彼女結構、その罪滅し編内部であれ?とも思える行動を取ってます。
 (まーこれは結構、ひねくれた見方になってしまうんですが…。)
 簡単にまとめると以下の通り。


・レナの告白のシーンで、「悟史くんを救わなかった!」とレナに断罪されるが、魅音だけはその罪を認めることがなかった。


・「レナの境遇を察する事のできなかった自分を恥じる、その罪を許して欲しい」と言うが、悟史を庇わなかった件についてやはり罪を認めておらず、許してくれとも言っていない。


・レナにも無断で死体を移動、処分。


・圭一に「園崎は過去の誘拐事件に関わっていない」と嘘をつく。


・レナを探す際、葛西との会話の中でレナの殺人についての話題を普通に出している。
 (魅音は葛西に喋ってしまっている。何らかの後始末を依頼したようにも見えないし、
  伏せたって別に問題ない気がするのだが…。)



 まあ、すべて良かれと思ってやっている事のようにも見えるんですが…。
 …ちょっと気になるのが、悟史を救わなかったのを認めなかった点ですね。
 まさかとは思いますけど。「犯してもいない罪を負う事はできない」って考えて回避したんでしょうかね、これ。




 で。
 この点について、目明し編に舞台を移し……もう少し考えてみます。




 昭和57年の綿流し付近。
 目明し編で説明がついておらず、そして罪滅し編で答えが提示されたっぽい事があります。
 「悟史の目撃証言のでっち上げ」です。
 罪滅し編魅音が打った手から、これは魅音の差し金だろう、と受け取れるわけなんですが――


 魅音のご学友たるレナはともかく。
 当時。
 殺人事件が起き、犯人と思われていて、なおかつ北条家の生き残りである悟史に対し。
 園崎魅音がこれをやってあげるってのは…いろいろと問題があったはずなんですね。


 どう問題があったか、というのを明確に考えるため、似たような事をした人がどういう目に遭ったか、を見てみますと。
 …学園から逃走、興宮に潜伏していた詩音は悟史のアリバイを証明し、爪三枚。
 …潜伏に関わった葛西は拘束され、義郎叔父さんも責任を追及された様子でした。


 まあもちろん、いらない妹で逃走中の間桐さk…もとい詩音と、次期頭首の魅音とじゃ事情が違いますし、待遇も刑罰の軽重さえも異なるでしょう。
 しかし。爪剥ぎから数日後、詩音に会いに来た魅音の手からは……爪が三枚失われていました。


 魅音は爪を剥いだ理由を「だって詩音だけかわいそう…。」などと言っていましたが、園崎が怪死事件への関わりを積極的に示したがっていない状況で、敢えて悟史を庇うような真似を園崎の力を借りてしたりすれば……魅音とて、けじめを免れ得ないと思われます。
 詩音の爪三枚は、葛西、義郎叔父さん、詩音でした。
 さて。ここで、魅音の爪三枚が何かを考えてみたいわけなんですが――


 まず、内一枚は確実にこの目撃証言偽装の件だと思われます。
 もちろん、この工作だけで三枚って可能性もあるわけなんですが、それ以外にも魅音がしでかしたっぽい事があるので、まずこの件は一枚分と考えます。


 さてここで改めて思い出したいのですが、目明し編で詩音に拘束された魅音は、その目撃証言の事について何て言ってたでしょうか。
 「自分は関与してない、わからない」という姿勢を見せていました。
 …しかしながら。罪滅し編での工作を見る限り、昭和57年の目撃証言は魅音の手による捏造だった…と推測できるわけです。
 ――このあたり、ちょっと食い違ってくるわけです。


 爪のこと、工作のこと。魅音はどちらもなぜ詩音に隠すのかはわかりませんが…
 とりあえず。昭和57年には、他にもあやしい出来事が起きていました。
 …叔母殺害の実行犯が思わぬところから名乗り出てきたこと。
 …犯行を事細かに自供し、あっさり犯人確定したこと。
 …そして自殺したこと。
 私はこれも、園崎組を利用した、魅音の差し金なのではないかと思っています。
 これで爪二枚目、と考えます。


 そして、ちょっと話は目撃証言の捏造の件に戻るんですが、
 罪滅し編魅音が圭一に語る「工作」の流れから見ても解るとおり。
 …魅音が悟史の目撃証言捏造を行ったと仮定した場合、その時の魅音は「その瞬間、悟史が名古屋駅とは全然違う場所にいる」って事を知っていなければならないわけです。
 ありていに言って、その時の魅音は悟史の居場所を知っていたのではないでしょうか。
 ――で、魅音が悟史の居場所を把握していた件については、「偽犯人」の工作の際に生じた思わぬ不手際が関係してくるのではないでしょうか。



 時系列を追って簡単に書いてみるとこうです。


1.悟史に容疑がかかったので、悟史が好きな魅音は連続怪死事件に敢えて介入。
  「犯人役」を別に用意させる。
  警察内部の御用聞きから遺体の状況を詳しく聞きだし、犯人役の男に教え込んだ。
  相応の報酬と引き換えに泥かぶりを承諾させ、麻薬取締法違反で逮捕されるように仕向けた。
  取調べを経て、男は犯行をほのめかすが、秘匿捜査に関する署間の連絡の不手際で興宮署に「容疑者確保」の報が伝わらなかった。ミス。


2.悟史に警察の手が伸び、同行していた詩音が悟史を庇い、アリバイを偽証した。
  けじめとして詩音は爪を三枚剥がされる。


3.犯人役の男が不手際で捜査線上に上らない以上、悟史に対する容疑が晴れるわけでもなく……魅音は何らかの行動に出る決意をした。
  沙都子の誕生日に興宮の郵便局で貯金を全額引き出し、以後悟史の行方が消える。
  しかし、魅音は悟史の居場所をある程度以上把握した上で、目撃証言の捏造を行わせる。
  悟史は「逃げた」という事で落ち着く。


4.魅音、爪一枚分くらいの「何か」をしでかす。
  (たぶん悟史をかくまったか何かした)


5.魅音の諸々の工作が鬼婆に露見し、けじめとして魅音は爪三枚を剥がされる。


6.そのまま、悟史が本当に行方をくらましてしまう。


7.魅音が詩音に会いに行った時には、お互い爪を三枚ずつ失っている。




 ……てな感じなのではないかと。
 悟史がどこへ消えたのか、についてですが……一応、考えてみた線としては、おりょうが怪しいですね。
 …放逐すればいずれ殺人容疑で警察に取り調べくらうだろう北条家の息子に、園崎家のいろいろヤバイ一面を(魅音のせいで)見せてしまった。消すしかない…。
 てなわけで魅音から取り上げた悟史を密殺し、魅音には「許した」とか言っておく。
 …でも事実としては、その日以来悟史は消えてしまっている。
 みたいな。
 

 ただこれだと、目明し編で詩音が訊ねた「名乗り出た犯人の件」や「目撃証言の件」などに、わからない、と魅音が返答する理由が不明なんですね。
 魅音はどうも証言捏造とかやってるっぽいのに、詩音から「百億の瞬間を見過ごした!」とか断罪されてもその事を言い出そうとしません。
 悟史を救おうとするための工作として理解できる「目撃証言の捏造」を私ちゃんとやりましたよ…って告白しないのは、なぜなんでしょうか。


 やはりこの行動の理由には、「残り爪一枚分の何か」の工作が関係しているんですかねぇ…。
 ――それとも、悟史の目撃証言を捏造したのは確かに魅音だったけど、その目的は別に悟史を救うためでも何でもなかった、って事だったりするんですかねぇ。


 うーん。
 何か前提が間違ってるのかなぁ…。
 目明し編における魅音は…隠し事こそすれ、嘘をついてるようには見えない。
 同じく、鬼婆が魅音を騙したともやっぱり思えない。
 でも、罪滅し編で校舎裏に呼び出された魅音の態度は、何か…胡散臭いんだよなぁ…。
 ああ。わからない。
 けじめマシーンだけが知っている気がした。




 …そういえば。
 ふと思い出しましたが。
 監督が、悟史の試合を見に来ていたのが「園崎魅音」ではなく「園崎詩音」であることを知ったのって、悟史が失踪した直後の事でしたね…。


 まさか、園崎魅音が悟史にまとわりついてるんだと勘違いして……とかじゃないだろうな…。