寄生虫ヌレギヌ説>


 少し考えた説を一つ。


 …こうやって伏字を埋めて読むとどうも引っかかるのだが。
 雛見沢症候群が実体のあやふやなメンタル的要素のみで構成される重篤疾患だったとしたら、その原因を寄生虫に見つける事はできないんじゃなかろうか。


 皆殺し編終盤で鷹野は「雛見沢症候群の証拠みたいなもんはある種の非人道的な手段を使わねーと取り出せねー」みたいな事を考えている。
 鷹野は結局、皆殺し編においては寄生虫がどうこうとは明言しないわけですが…
 これは、生きたまま腹をかっさばいて寄生虫取り出すんです、的な意味にも取れる。
 宿主が死んだら寄生虫も死なざるを得ないしね。


 「女王感染者」とかいう怪しげな単語も出てくるし。古来の風習に綿流しなんてもんもあったし。直後に梨花の腹を裂いたりもしているし。
 これらのことから、


・鷹野が雛見沢に伝わる「綿流し」を悪心除去、寄生虫除去を目的とする古代儀式のようなもんだと解釈し、
・雛見沢出身者の起こす奇病の記録からも「雛見沢症候群」の実在を信じ、
・その原因が風土…土地に発生する寄生虫の影響と直結している、


 と彼女は結論付けているのだ、と見る事もできる。
 だが、雛見沢症候群てのが純粋な社会精神病だとすると、女王感染者だの寄生虫の存在をほのめかすような言動だの、仮にも研究の近くにいる鷹野が普通に示してたり周囲もまた物騒な危機管理してたりってのは一体どういう事なんだ、という話になってくるわけだ。
 この辺りで、大災害後に全国に波及したりもする「雛見沢症候群」と、村の中で末期発症する「雛見沢症候群」との定義の間には大きな齟齬が生じてくるわけだ。


 んで、何が言いたいのかというと。
 いやね、雛見沢症候群が実体ねーだの器質的病根がねーだのなんてのは割とどうでもいいのですよ。
 本題はそっちじゃなくて…要するに、東京が研究資金出して入江が研究して、と「雛見沢症候群の研究」というものは実体のないものじゃないわけですよ。
 というか、実体がないものに金と時間をつぎ込む馬鹿はそうそういないわけですよ。いたらそいつは詐欺に遭ってるって事ですが、研究施設建てて金貰って警備つけて定期的に報告出して長いこと研究してるものが嘘でした詐欺でしたエヘヘ、て事はまずあり得ないと言っていい。
 つうか、元をただせば兵器としての有用性を認められたからこその研究開始があったわけだろうしね。金出す以上、実を結ぶビジネス(…ビジネス?)としての可能性が見えなければならん、と思う。症候群なんてありませんでしたー、て事ならとっくの昔に診療所はなくなってるだろう。
 少なくとも、症候群あるいはそれに類する/定義され得る何らかの症状が村落を対象とする特定区域内に散見できる(そして原因が特定しきれていない)、てのはホントなんだろうと思われる。
 一人で研究してるわけでもなし、定期監査(富竹)も来るし監視(鷹野)もいるし報告もしているようだし、そうそう長いこと嘘をつき通せるとも思えんし。


 で、だ。
 雛見沢症候群の凶暴性に関する話、また女王感染者に関する話はこれは嘘だろうと私は思っている。
 でも、鷹野だけでなく入江や富竹もまた危機管理をきちっとしている以上、これは実のない話ではないとも言えるわけで……専門に研究を進めているだろう入江が警戒しているって事は(そして有事の際は48時間以内に一村全滅なんてふざけたプランが用意されているって事は)、つまり起こり得る可能性を既に予測され、広く認められている“災害”でなければならんわけです。「女王感染者の死後一般感染者が暴れ出す」なんてけったいな話は。
 でもこれ多分嘘だろうと思うんですわ。入江は多分梨花と同時刻かそれ以降に自殺を装って殺されてるんだと思うんですが、これやっぱり口封じの匂いがプンプンしやがる。
 富竹が死んで鷹野が消えて、入江はおろおろしているっぽいですが、梨花(女王感染者)が死んで速攻で自殺するタマとはやっぱり思えない。話が本当なら48時間後には一村丸ごとひぐらしのなくこロワイヤルになる訳で。で、長年腰を落ち着けて研究を続けてきた入江もまたL3以下の感染者の仲間入りを既に果たしているのだろうと思われるので、彼が48時間後の世界に絶望して睡眠薬自殺する理由がなくもないのですが、何も告げずに一人で死ぬってのがどうも臭い。あと毎回死に方が同じってのはイコール計画通りに殺されています、と考えてしまっても良いだろう。
 入江の死が口封じだったとすると、皆殺し編中盤、診療所内で行われていた「富竹への成果報告」(スライドショーね)が怪しい。
 ぶっちゃけ、雛見沢症候群治療の目処がついたとか、三ヶ年計画の立案とか以外にも、「女王感染者の死に伴う危険性そのものの減少の報告」がその場でなされていた可能性すらあると思う。
 三ヶ年計画で治療されて“爆弾が爆発しなくなる”のを恐れたのではなく、「女王感染者の死に伴う危険性は確かにあるが、考えられてた程でもない」と報告されることで有事の際の殲滅作戦案が破棄され“爆弾が爆発しなくなる”ことにリミットを切られて、昭和58年綿流し後というあのタイミングで終末作戦を発動させたのではないかと思うんですな。


 前置きばっかり長くなって申し訳ないですが…つまり、まとめるとこうなんじゃないですかね。


・雛見沢に寄生虫はホントにいる。
・で、住民の腹の中に相当量生きている。
雛見沢症候群は風土病と思われていたが、実はこの土地に生息する寄生虫の影響によるものだった…という見解が近年になって提出された。
・↑しかしこれは間違い。寄生虫と症候群との因果関係はないか、あるいは非常に細いものでしかない。
・現場監督殺人犯を「凶暴化した症候群患者」として捕まえてきて、腹の中から大量の寄生虫が見つかった事から「研究が飛躍的に進ん」でしまった。
・入江が研究しているのは虫下し。寄生虫の影響をインターセプトし、村民を独立独歩の健康体に戻す為の、寄生虫を三年掛けてゆっくり根絶させる「三ヶ年計画」。
・でも寄生虫と症候群は、凶暴化の原因を押し付けられるほど直結してるわけじゃない。
・ていうかヌレギヌ。入江の研究は衛生面では非常によろしい事だが実は意味が薄い。
・沙都子が注射してんのは虫下しの類ではなく、インターセプトする為の薬剤。凶暴化しないように精神を安定させる目的もあるわけだから、そういう薬剤も含まれており、多分もう軽度の中毒に陥ってる。
・中毒に陥っていないにしても、故に日に二度の注射が絶えると「精神の安定を失う」。平時の精神状態に外的要素が常に影響してるのであれば、これは当然。つか仕方ない。
・鷹野は何らかの理由で一村壊滅させたかった。
・入江の治療が進むか、あるいは富竹が報告を持ち帰るだけでも、雛見沢症候群という爆弾が爆発しなくなるため、彼女は昭和58年をリミットに“大災害”を起こした。
(入江の治療が進む→梨花が死んだところで村人が危険な存在ではなくなる)
(富竹が報告を持ち帰る→同上)
・色々動いている山狗を見て、入江に東京に直接報告内容を伝達されても困るので口封じした。
(殺す前の数日間については、あらかじめ定期監査員の富竹を消しておく事で、東京に入江診療所の暴走を疑わせ、入江の申し開きやら直接報告やらを信用しないよう仕向けておいた)
・入江を大災害前日に偽装自殺させたのは大災害に信憑性というかきな臭さを加えるための、ただのオマケかも。(東京に対して)
・アレを注射された富竹=女王感染者を殺された村人達という等式は成立しない。のだが、一村壊滅させる側の連中はこれを同一であると見なしたと思っていい。多分。



 うん。なんつーか、これだと研究が続けられてきた事とか、女王感染者の話がちゃんと危機管理されてる理由とか、入江が死ぬ理由とか、富竹の死の意味とか、色々と説明もつく気がする。
 つうか、寄生虫についてちょっと調べるとわかりますが、昭和中期には本当にこういう話が多いのですよ。「長くその土地の風土病だと考えられてきたが昭和〜〜年に○○博士が○○虫の大量寄生による症状である事を発見、治療に至った」なんて話はうんざりするほど出てきます。昭和30年〜40年の事例が多いんですが、方針を間違えたまま戦時中からずっと研究を続けられていると仮定すれば、ひぐらしのような昭和50年代もアンダーパーと言ってもいいでしょう。
 まあ、現代で寄生虫話となると、田舎と言えどチト厳しいですが。(笑)


 あいつは人殺しですよー、と複数件の冤罪を被せられれば、誰もがその人を殺人犯だと思うだろう。
 ちょっと言い方は乱暴だけど基本的にはそれと同じ事であって、血なまぐさい歴史やら連続怪死事件やらのせいで、雛見沢にはありもしない危険な「風土病」が捏造させられ、さらに土地に生息する寄生虫はヌレギヌを着せられ、研究者やら神を目指す女やら各人の勝手な意向によって寄生虫や村人が“殺人犯”として裁かれようとしていた。
 行き違う相互不理解が織り成す疑心暗鬼・暗中模索の、実体なき犯人なき凶器なきホラー。
 かな、かな、と時雨のような無数の疑問符が夕暮れの小村を覆い、迷える人々の心を埋めていく。
 「ひぐらしのなく頃に」はそういう物語なのかも知れないなー、とちょっと思った。


 …いや、以上の考えは全部私の妄想かも知れんですが。



<割とどうでもいい事>


「姑獲女の夏」を読んだ。
やっぱり認識異常てのは描き出せる出せない以前に禁じ手なのかも知れんなぁ。