ネガティブハッピーチェーンソーエッジ 書評

        *** 神主様のありがたいお言葉 ***



  この世の中に神なんてどこにもいないけれど、金だったら大量に要る。





【ネガティブハッピーチェーンソーエッジ】






記憶では、だいたい10年くらい前だろうか。
「大型新人が問題作をひっさげて堂々登場!」みたいなアオリとともにこの作品名を聞いたような気がする。
何かニュース番組だったような……カウントダウンTVだったような……。まあ記憶の話はどうでもいい。
古本屋で聞き覚えのあるタイトルを見かけた為に買ってみたのだが、この本は角川文庫ではあるものの、表紙もイラストではあるものの、
なんだかあまりラノベらしからぬというか、そんな装丁だった。
だがしかし、中身はしっかりとラノベである。
ありがちな青春小説としての風味付けと、まるで新聞の中ごろに連載されているかのような一般向け大衆小説のようなテイスト。
その二つを加味しているものの、本作品はまごうことなきラノベである。
ボンクラ高校生がボンクラ寮生活を謳歌していたある日、夜の公園で争う二人と遭遇する。チェーンソーを振り回す大柄な怪人に立ち向かうのは、銀の投げナイフを構える女子高生だった……とまあ、大体そんなようなお話である。
まあ、ストーリーもオチもそのへんのノベルゲーの一シナリオと大差ない。話としてはごくありふれたものだ。
主人公やヒロインはステレオタイプの高校生として描かれているが、どうにも型が若干古く感じられる。
二人の会話シーンからは昭和の香りが漂ってくる。
ただ、異常な状況に放り込まれた主人公はそれでもやっぱりボンクラのままであり、いまいち現実から脱却しきれない。
チェーンソー男に襲われる対象はあくまでも女子高生ひとりのみであり、ただの目撃者でしかない主人公は、毎夜繰り広げられる闘争にチャリで駆けつけ、手に汗握って見守るだけという、なかなかシュールな役割をほぼ全編を通じて与えられ続ける。
このあたり、シュールでありながらもそこはかとないリアルさを感じる。シュールでリアル。これがいわゆるシュールレアリズムという奴だろうか。(ちがう)
そんな調子で、全く主人公らしからぬ、とてもささやかなお手伝いだけを、あくまでも控えめに、本当に少しずつ行って、女子高生をサポートしようという意志をかろうじて見せる主人公。
そうではあったのだが、だがしかしその一方で女子高生もまた、ある日突然ひとりきりでチェーンソー男と戦わされるようになった身の上でしかない為、その男らしくないサポートにさえ心強さを覚え始める。うん。似たもの同士だこいつら。
そして両者の戦いは最終決戦を迎え、二人もまた最終局面を迎えて……といった感じに、物語は怒濤の勢いで終盤へとなだれ込んでゆく。
まあそうは言ったものの、物語の結末は、予想は裏切らないし展開は月並みだしオチもやっぱりねとうなずけるものでしかない。
だがしかし。無力な者が困難に直面し、無力なままで立ち向かい、無力なまま寄り添い続け、そして結局は無力なまま、最初と何ひとつ変わるところのないまま結末を迎える。そういう話があってもいいのではないかと思った。
青春は必ずしも強さを必要とするものではないし、また分かりやすい成長譚ばかりがもてはやされるべきものでもないだろう。
ラストに至るまでの怒濤の展開はまさに青春全開、恋愛まっしぐらであり、読んでいる途中で何度顔を赤くし、そして何度本を岩風呂の底に叩きつけようと思ったか分からない。
まあそれくらいには良著である。





【後書きで作者引きこもりみたいな事書いてたけどまだ生きてんのかな】