<叔母殺害の疑問点>


 昭和57年6月18日、北条玉枝が撲殺され、その数日後に北条悟史が消えます。
 失踪日は北条沙都子の誕生日。
 最後に目撃されたのは興宮の郵便局。貯金を全額引き下ろす姿でした。
 おもちゃ屋のショーウィンドーからはぬいぐるみの姿が消えています。


 このケースを、単純に悟史が叔母を殺して何らかの理由で消えた――と見た場合、生じる疑問点について簡単に考察してみたいと思います。


1、遺体の状況


 発見された叔母、遺体の顔は酷く潰されていました。大石の言を信じれば、顔を潰すのは怨恨の線が強いという話です。
 しかしながら、悟史には叔母を排除する理由はあっても、叔母の顔面を叩き潰すほどの怨恨はないと思われます。(シミュレートでも引き出しを覗かせて後頭部を殴る、という流れを考えてはいるが、その後、抵抗のない状態で仰向かせて顔面を叩き潰すようなシミュレートまではしていない。ちなみに…圭一もそこまではしなかった。)
 抵抗した様子がないのに仰向かせて顔面を潰すという行為からは、確実に仕留めるため以上の何かを感じざるを得ません。
 入江が語る診察の様子からも、また普段の悟史の様子からも、悟史から叔母を対象とする明確な憎しみは“感じ取れません”。あの末期的な日記に至ってさえその通りです。叔母を排除することを匂わせてはいても、叔母を激しく憎んでいるというくだりは結局出てきません。
 逆に、TIPS「恨み帳」の方には――対象は違えど、虐待者に対する恨みつらみが赤裸々に綴られています。執筆者が誰かを推測してゆくと…


 …以上の点から、私は、少なくとも玉枝の顔面を潰したのは沙都子以外ありえないんじゃないかなと考えています。


2、失踪時の状況


 沙都子の誕生日。おもちゃ屋からぬいぐるみが消えていました。
 詩音は園崎のコワモテがぬいぐるみを売れと札束を叩き付けるシーンを想像していましたが、これはありえません。何故かというと、悟史がぬいぐるみを買ったという事実を創り上げて得をする人がどこにもいないからです。
 ぶっちゃけ、名古屋駅での目撃証言と真っ向から対立する目撃証言だからです。
 この証言偽造が園崎の仕業とすればわざわざぶち壊しにするような工作はしないでしょうし、また、「悟史がぬいぐるみを買ってから消えたというシナリオにした」場合、悟史の予測行動範囲はぐっと絞られてしまい、結局は興宮近辺で消えたという結論になります。結果として園崎が疑われるのがオチでしょう。また、予約票を貰っていた悟史以外の人間がぬいぐるみを強引に買ってゆくには、それこそ園崎クラスの力が必要でしょう。(まぁその日の店番はボケてたからあまり関係ないといえばないが、それはあくまで不確定要素に過ぎない。普通の店番に一般人の客だったらハネられて当然)
 ゆえに、悟史は本当にぬいぐるみを購入したものと考えます。
 しかし、そうなると悟史は馬鹿でかいぬいぐるみ(をラッピングしたもの?)を自転車の荷台あたりに乗せて雛見沢へと持ち帰る事を考えていたのではないかと思われます。
 そんな奴は目立つと思うのですが……何故か、悟史の消息は金を引き出した郵便局以来つかめなくなっています。
 指摘されなかったり警察にも重要視されていないところを見ると、ぬいぐるみも出てきてませんし、また乗ってたと思われる自転車も出てきていない様子です。
 となるとこれらも一緒にどこかへと消えた、と考えるのが妥当でしょう。
 想像してみると、馬鹿でかいぬいぐるみを自転車に載せて運ぶ悟史の姿は不安に見えます。
 知り合いから「車に載せて一緒に雛見沢まで運んであげるよ」なんて声をかけられたら……喜んで承諾しそうですね。


 まあ…祟殺し編において、車に自転車を積んで移動してくれたり荷物を載せて運んでくれたりする親切な人(たち)がいるので、実行犯に(なってしまった奴に)関しちゃ多分その辺りが怪しいんじゃないかなー、と思うわけなんですが。



<おまけ>


 ちょっと脱線しますが、昭和57年に悟史が叔母を殺すシーンを沙都子が目撃してしまった…と考えた場合、昭和58年に沙都子が鉄平殺人を告白した圭一に見せる態度がおかしい気がします。
 入江の死を聞かされた後やら梨花の死体発見やらで、確かにシチュも最悪ですけれど、あのシーンにおいて、圭一が自分の為に鉄平を殺ったんだ…という事実を沙都子はまるで理解していない様子です。
 まあ、この辺は沙都子次第ではあるのですが――悟史がどうして消えたかを考え「自らの罪に気付いている」などと口にしながら、かつ二年連続で全く同じ事をやられたのを把握しながら、…自分自身に寄せられる気持ちに全く気付かないってこたぁないんじゃねえのかと思います。
 少なくとも、多少は理解する姿勢を示しても良さそうなものですが…殺人の告白を聞かされた沙都子はあっさりと圭一を避けます。
 「兄が自分の為に叔母を殺した」という前提認識があれば、「圭一が自分の為に叔父を殺した」という内容にあたる告白ももう少しくらい真摯に受け取っても良さそうなもんだとは思う。


<さらにおまけ>


「沙都子、誕生日プレゼントを買ってきたよ」
「ひっ…騙されませんわ…そうやって、私まで…邪魔なお荷物の私まで…!」
「信じてよ、沙都子…。ホラ、沙都子の欲しがってた…」
「い、いやあああああ」
フォゥングシャッ


 みたいな事があったのかな…などと推測してみたのだが、まあこれだったら沙都子の精神も無事ではすむまい。もう少し壊れてるだろう。


<ついでにオリスク>


 少し進んだ。
 ちなみに私のは単に人物の行動推理だけではなく物語の不審な点、大災害や祟り怪死等にも焦点を当てていますよというか当てないと面白くならん。
 語られ得ぬ部分を勝手に補完しつつ推理、推理しつつ補完…という意味では「11.5日目」に似た作品になりますね。
 まぁメインは祟殺し編末期の混乱にそこそこ説明をつけることですが。