だんだん長くなってゆくどうでもいい前置きはさておき。
 今日は、「鬼隠し編」末尾で圭一の部屋の時計の裏から発見されたメモの欠損部について少し考えてみたいと思います。


 鬼隠し編終幕付近で、
 「レナと魅音に罰ゲームと称し注射をされそうになった」圭一は(あくまで圭一主観)、
二人をバットで撲殺(したような記憶が意識を取り戻した後に蘇ってくる)。
 その後、男達に包囲された家からの逃走にあたり、メモを残します。
 このメモは以前から生命の危機を感じていた圭一があらかじめ用意したものに加筆したものであり、その内容は以下の通りです。



私、前原圭一は命を狙われています
なぜ、誰に、命を狙われているのかはわかりません。
ただひとつ判る事は、オヤシロさまの祟りと関係があるということです。
レナと魅音は犯人の一味。
他にも大人が4〜5人以上。白いワゴン車を所有。

− − − − キリトリセン − − − − −

バラバラ殺人の被害者をもう一度よく調べてください。生きています。
富竹さんの死は未知の薬物によるもの。
証拠の注射器はこれです。

− − − − キリトリセン − − − − −

どうしてこんなことになったのか、私にはわかりません。
これをあなたが読んだなら、その時、私は死んでいるでしょう。
…死体があるか、ないかの違いはあるでしょうが。
これを読んだあなた。どうか真相を暴いてください。それだけが私の望みです。

前原圭一



 血まみれの部屋で圭一は三行目以降を書き足し、以上の全文を書き残した後、自室の時計の裏に魅音の所持していた注射器もろともに隠し、逃走に移りました。
 その後、公衆電話から興宮署の大石に架電。オヤシロ様の実在を指摘するような内容の言葉を残し、意識不明のところを発見され、病院に運び込まれるも24時間後に出血性ショックで死亡しています。

 で、後日発見されたメモからは、中央の三行部のみが切り取られていました。
 また注射器も見つかりませんでした。




 ――この、切り取られた部分なのですが。
 私は、「バラバラ殺人の被害者をもう一度よく調べてください。生きています」
 の部分こそに、切り取らねばならない必要性があったのではないか、と考えています。



 まず、圭一はどうしてこの文章を書こうと思ったのでしょうか。
 目覚めた後、レナと魅音の「監督に電話した?」「もうすぐ来るって」という会話を聞きとがめた圭一は、「監督って誰だ」と訊ねます。すると二人は「監督は監督」「映画監督とか、工事現場の監督とか」と答えたため、祟りに関する情報の中から監督という単語を拾い出す圭一は、「監督」=初年度の祟り殺人で犠牲となった工事現場の監督、と思ってしまいます。(実際には、直後、白衣の男が前原屋敷を訪れている事から考えても、ここで言っていた「監督」とは入江監督を指しているものと思われます)
 その為に、「死んでいることになってる奴が生きている」と考えた圭一は、メモにそう書き残してしまうのですが……
 ちょっとここで、この文章をもう一度見てみたいと思います。


“バラバラ殺人の被害者をもう一度よく調べてください。生きています”


 この文章、ちょっと別の意味にも解釈できるように思うのです。
 まず、バラバラ殺人という表現なのですが、この表現とよく似た表現が、実は割と複数回登場したりしています。
 「個別の事件」「連続した事件」という奴が、それにあたります。
 おいおいちょっとまってくれなんで54年のバラバラ殺人と連続怪死事件が意味おんなじになるんだよ、と思うかも知れませんが、要するにこういう事です。
 バラバラ殺人 = バラバラの殺人事件 = 個別の(殺人)事件
 この解釈をするのは苦しいだろう、と思うようですが、圭一の脳内で展開する「監督→死んだ筈の奴→生きてるのか→バラバラ殺人された奴が生きてる」という流れを経ずにこの文章を読んでみると、こう解釈できないこともありません。というか、この意味は読む人によって変わってもきます。この辺は改めて後述します。
 また、「犠牲者」ではなく、「被害者」と書いているところもポイントです。
 殺人の被害者となれば殺された人の意味でしかないのですが、毎年の祟り怪死事件の被害者、という事であれば、常に別の被害者が出ているのが特徴です。まあ、初年度の作業員は加害者どころかリーダー格であるためこの表現はあまり当てはまりませんが、二年目〜四年目の祟りに関しては十分適用しているわけです。
 

 つまり。何が言いたいのかというと。
 ――このメモを読み、そして破り取った人物は、圭一が残したこの文面から、
 「前原圭一は祟りで消えた人間達が生きている事を確信し、知らせようとしていた」
 という、見当違いの内容を読み取ってしまった可能性があるという事です。



 では、圭一の遺書を読んだ際、こういう解釈、このような誤解をする人間は誰なのか。についてなのですが、
 これに関しては、

1.実際に祟りで消えたことになっている人間か、その匿っている人物か、あるいはその事実を秘匿している人物
2.その事実を明かされたらまずい人物であり、なおかつこの文章を読んだところ、“そう言えば、以前圭一に、「それぞれの事件はバラバラに解決してて…」みたいなこと言った覚えがある”と思い出す人物

あたりが挙げられるかと思います。



 で、疑わしい人物はと言うと…
 2.に関して言えば、鬼隠し編において連続事件の事を圭一へと語る、富竹・鷹野・大石辺りがその人物に相当します。
 後にメモの第一発見者となる大石あたりはかなり有力な線とも言えるのですが、もし大石があの文章を読み「前原圭一は祟りで消えた人間達が生きている事を確信し、知らせようとしていた」と解釈するのであれば、そもそも切り取る理由がないように思います。大石には例年の失踪を装う必要性がありません。


 ただ…ここで気になってくるのが、男達を連れ前原屋敷を訪れた「白衣の男性」であり、また、圭一気絶中にレナに呼ばれてもうすぐ前原屋敷へと来るはずだった「監督」です。とりあえず、符号点の多さからこの人物は入江であるとします。


 鬼隠し編ラストで、レナ・魅音の死体発見は、電話ボックスで意識不明となった圭一の発見よりも後となっています。
 これは――少しおかしい気がします。
 なぜかと言うと、圭一は入江がチャイムを鳴らしている時に裏口から忍び出て、男に見つかり、一目散に逃げ出しました。
 この来訪の目的も不明ではありますが、入江一人ならいざ知らず、この状況で入江が連れの男達ともども圭一を追いかけた――とは、ちょっと思えません。
 少なくとも入江はレナから前原屋敷へ来るよう電話を受けています。これは確実です。
 なら、圭一が単身で前原屋敷から逃げ出した場合、まずは一緒にいたレナから事情を聞くのが普通ではないでしょうか。(圭一を追いたいのであれば二手に分かれればいいし)
 圭一は裏口から逃げ出したので、レナの残っているだろう前原屋敷は鍵があいています。
 で――入ってみると、二階では血塗られた部屋に二人が横たわっているわけです。


 ここで、入江はなぜ二人を診療所に搬送しなかったのでしょうか。
 また、なぜ警察に連絡しなかったのでしょうか。
 入江はこの後おそらく、診療所にて圭一の治療を行っていると思われます。
 結果は24時間後の出血性ショック死。


 ――事件への関与を避けるためだったから、としか思えない、入江の不可解な行動です。



 さて。これらを踏まえつつ、本当のメモの第一発見者が誰かを推測しつつ、“鬼隠し編ラストの圭一の部屋で何があったか”の流れを推理してみたいと思います。



 魅音、鎮静剤を手に圭一へと近寄ってゆく。
 (「富竹さんと同じ目に遭ってもらう」というのは、実は祭りの晩も、何らかの理由でおかしくなった富竹に鎮静剤を注射したのは魅音だった。この行為は怪死とは無関係)
 ↓
 圭一、“怪しげな薬物を注射される”と思い羽交い絞めを解き、魅音を蹴る。
 ↓
 飛び掛ってきたレナを体当たりで壁に打ち付ける。
 ↓
 バットを手にし二人を殴打。
 ↓
 魅音気絶。レナ重傷を負い昏倒。血だらけの部屋でふと我に返る圭一。
 ↓
 来訪した「監督」から逃げるため、慌ててメモを書き足す圭一。
 ↓
 気絶から回復した魅音、内心恐怖に震えつつ死んだふりをしながら圭一のその様子を見ていた。
 (序盤:部活のゾンビ鬼の顛末は、この、魅音の死んだふりの暗示かもしれない。
  また、レナに、圭一君はひどいことしないよね?と言われためらった構図と比較しての皮肉も含まれているのかも)
 ↓
 圭一裏口から逃走。男達の一部が追う。
 ↓
 圭一が遠ざかったのを察知、魅音どうにか起き上がる。重傷を負い血を撒き散らして昏倒するレナに駆け寄り、呼びかける。
 ↓
 裏口から入ってきた入江、二階の圭一の部屋に駆けつけ、レナの状態を確かめつつ魅音に状況の説明を求める。「魅音さん、これは…ここで一体何があったんですか?」
 ↓
 「圭ちゃんに…。う…油断した…」「あの鎮静剤は使わなかったんですか?」
 などのやり取りをしている内に、魅音、注射器がどうなったか思い出す。
 ↓
 なにやら圭一が隠していた時計へと駆け寄り、裏から注射器とメモ紙をはがす。
 なぜこんな行動を取ったのか知ろうと、圭一が残した文面を読み始める。 
 ↓
 入江も興味を持ち、レナの治療の傍ら読み始める。
 二人は問題の一文へと差し掛かる。
 魅音には既に死んだ人を生きているとする圭一の精神異常を現す一文にしか見えないが、
 入江には圭一が失踪者の生存に気付いていて知らせようとしている、と読めてしまう。
 ↓
 鎮静剤をも怪死を呼び込む薬剤と思い込む圭一の被害妄想に心を痛める魅音
 ↓
 入江、無言で転がっていたバットを振り上げ、振り下ろす。相手はレナ。
 レナ「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」
 ↓
 何らかの理由で失踪者の所在を知っている入江は、この文面を読んだ魅音とそのやりとりを聞いたかも知れないレナを生かしておくわけにはいかなくなった。
 ↓
 男達に手伝わせて魅音をも撲殺。圭一の犯行に見せかける。
 ↓
 注射器を残しといたらレナと魅音に害意がなかった事がわかってしまう。
 せっかく二人は犯人の一味、なんて書いてくれてるんだから利用しない手はない。
 三行を切り取り、元に戻してその場を去る。
 ↓
 圭一を確保し、富竹と同じような傷をつけさせる(致命的なものでなくてもよい)。大石宛に「犯人は祟り」みたいな妙な電話をかけさせ、意識を失わせて放置。駐在に発見させる。
 ↓
 診療所に運びこまれたところを24時間かけて殺害。死因は出血性ショック死。
 ↓



 ひ ぐ ら し の  く 頃 に



 (ずどーーん)




 どうでしょうか。
 一応、筋は通ったかと思うんですが……うーん、苦しいか?
 私は恐らく、鬼隠し編で圭一が「殺される」ことになったのは、このメモの誤解が原因ではないか…と思っています。
 ただ圭一は、それ以前からも「殺される」以外の目的で周囲に目をつけられているフシがあるので、うーん。その辺の詳細がわかってくればなぁ。
 より一層、筋書きが立てやすくなるんですが。


 まだまだ推理していきます。