<レナの首かきむしり症状は何だったのか>


 罪滅し編のレナは寄生虫に侵されていなかった…という事を改めて、証明しますと。


:昭和56〜57年のレナ


症状:両親の離婚により精神不安定となり、体内の異物という妄想から自傷行為
沈静条件:帰郷(オヤシロ様の幻覚を見、「雛見沢へ帰れ」というメッセージを受ける)
結果:雛見沢へ帰還し、条件満了につき症状消滅


:スクラップ記事の「うじ涌き病」


症状:故郷を離れた雛見沢出身者達の、首に対する自傷行為
沈静条件:故郷たる雛見沢への帰郷
結果:帰郷者は症状消滅(らしい)


:「うじ湧き病」に関する鷹野の考察


症状:故郷を離れた寄生虫キャリア達が、環境悪化に抗議する寄生虫の影響により自傷行為
沈静条件:寄生虫にとって最適な環境たる雛見沢への帰還
結果:帰郷により寄生虫は沈静化、症状消滅


罪滅し編においてレナの発症した首かきむしり症状


症状:寄生虫が体内にいる可能性の認識より後に発生した、首に対する自傷行為
沈静条件:寄生虫の排除のみ
結果:圭一との戦闘中に痒み等の症状消滅



 ……こうして並べると、罪滅し編のレナの症状だけ明らかに条件がおかしいわけです。
 というか、辻褄が全然合っていないわけですね。突っ込みどころ満載なわけです。


 レナがスクラップ帳の記事や、鷹野の考察を信じるにしても、…最低、雛見沢にいる限りその病には囚われなくて済むはずです。しかしながらレナは首をかきむしっています。
 まあこの症状露呈は劇中でも語られている通り、村の中で首をかきむしって死んだ富竹から類推されたものなわけなんですが……ともあれ、レナは「うじ湧き病」記事と富竹の死に様との関連から、「御三家がパワーアップした寄生虫を富竹に植え付け殺した」という説を主張していましたね。
 そしてレナ自身もまた首をかきむしり始め、「自分もまたその強い寄生虫に侵入された」と訴えるに至るわけなんですが……それこそ、首が血まみれになる程の痒みを訴えていたはずなのに。…レナは圭一との戦闘中、あっさりその症状から脱します。
 そして。以後の裁判に関する記述などを見るに、彼女はちゃんと生存していた様子です。


 レナの主張通り本当に、体内から排除しない限り首をかきむしり死んでしまうくらいの強い寄生虫がレナの身体を蝕んでいたとしたら……圭一とどつき合ったきっかけで症状がなくなるとは、とても思えないわけです。
 故に、レナの体内には寄生虫などいなかった。それはあくまでも妄想だった。




 ……となると、
 「じゃあ何でレナはあんなに血まみれになるくらい痒がってたんだよ」て話になってくるわけです。




 茨城にいた頃から「皮膚の下に何かいる(血管の中か)」という妄想を抱き、自傷行為を繰り返し精神科へも通院していたレナ。
 しかしながら、過去に自傷経験もあり、また妄想症状も呈した事のあった彼女が、罪滅し編において実際に首を掻き毟り出したのは…鷹野から「うじ涌き病」に関するスクラップを貰い、その症状に関する知識を得た以後の事になります。
 そして、レナが「もう首が痒くなくなった」と語るのは、圭一との打ち合いによって――ある程度本来の自分自身(あるいはほんの数週間前、水鉄砲を撃ち合っていた時のレナ)に戻って以後の事でした。


 これらの点から判断すると、このうじ涌き病という症状は、スクラップ帳や会話による誘導によっても発生し得る、妄想を基にした一症状――と見てもよいでしょう。
 ただしもちろん、その「誘導による発生」には相応の素地または下地が必要です。


 レナは雛見沢に関する妄想やら自傷行為やらの経験持ちでしたから、この症状に至らしめるのは比較的容易な事と言えます。
 オヤシロ様の幻覚やら体の中の異物やらという「妄想」と、その妄想を行動理由とした「自傷行為」。過去の記憶にこの二つが結びついた経験を持つレナであれば。
 精神が不安定な状態のところへ、「うじ涌き病」の存在を信じ込ませ、そしてその「病」の現存の可能性を匂わせ、“レナ自身もまた感染の対象外ではない”という事を把握させれば……たちまち昔へ逆戻り。
 レナの発症した症状には被害妄想も含まれますから、感染源の近くで日々暮らしているという危うい認識を持つ限り、「自身がうじ涌き病に侵されているかもしれない」という考えに辿り着くのは時間の問題でしょう。


 つまりレナは、うまく背中を押してやる事さえできれば、一人でどこまでも泥沼に落ちてゆける人材と言えます。
 しかしながら、その「うまく背中を押してやる」というのはとても難しいわけです。
 なぜなら、一年前に越してきたレナの複雑な過去なんてそれこそ誰も知らないわけですし、レナが記憶に抱える「体内の異物の妄想」と「オヤシロ様の妄想」と「自傷行為」という症状に、ぴったりフィットするような形である「うじ涌き病」のスクラップブックなんて――それこそ誰にも用意する事なんてできません。
 だからレナを利用することなんて誰にもできない、と言えるのですが……
 しかしここで改めて考えてみると、首をかきむしったのは、何もレナ一人ではありません。
 富竹という死者が既に存在してしまっています。


 つまり。鷹野と親しかった富竹が自らの手で首を掻き毟った背景には、この「うじ涌き病」の認識が底の方にあったのではないだろうか…
 そして、偶然にも下地を揃えていた事を知られたレナは、富竹用に用意されていた「認識」をついでに植えつけられ、背を押されあのように暴走してしまったのではないか…
 …などと、考えてしまうわけです。


 レナは鷹野に自分の襲われた症状について告白し、あのスクラップ帳を受け取りました。
 そしてレナの立てこもり事件の解決後翌26日、レナの暴走が終わりを告げた翌日に、梨花が殺され入江が自殺し雛見沢大災害が発生します。


 罪滅し編でのレナは、ある人には道化の一人として、そしてある人には連携することのない同志として、利用されてしまっただけなのかもしれないな……と思いました。




<推理以外の記事>


 何ヶ月かぶりに焼肉を食べにいったら、隣席の家族連れの子供にやたらしつこくちょっかいを出され、いつものように深夜のひと気のない公園を走っていたら、突然自転車の男が後ろから追いかけてきて進路をふさがれおもむろに「元気?」と訊ねられる。(ジョギングを中断し立ち去る他なかった)


 …えっと、何だったんだろ今日。厄日か?