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<嘘つき二人>
やはりこの二人は嘘をついている、ような気がする。
・鷹野
・羽入
まずは鷹野から。
祭後の鷹野の行動を簡単にまとめると、以下の通り。
富竹殺害→自身偽装死→二件の殺人が入江の暴走のように偽装→梨花殺害
で、梨花の死に際し、緊急事態発生という事で政府に連絡がゆく。
首脳としては34号の認可を下すしかないわけで…
34号発動認可→
予備命令で既に展開していた装備実験中隊、ガス災害を装い村民を避難誘導、殺害(指揮者鷹野)→
死体を校庭に移動、銃殺体を行方不明者となるよう処理した後、災害出動の自衛隊に引継ぎ
この流れで「雛見沢大災害」がでっち上げられ、「雛見沢症候群」は闇に葬られる。
(いやまあその後全国に飛び火しちゃったりするけどさ)
だがここで、この作戦の流れがどこかおかしい事に気付く。
この「終末作戦」だが、目明し編や綿流し編においては上のシナリオ通りに進んでいない。
・上記二編でも富竹は死に、鷹野は偽装死を果たし、梨花も死んだ。
・ゆえに、全村民の末期発症の条件は満たしている。
・ゆえに、内閣が34号の発動を認可する必然がある。
・しかしながら――上記二編では大災害が起こらない。
要するに。作戦の第一段階は確かに発動しているのに、それ以後がうまく展開されていない。
どうしてこうなったのか。
この理由を、上記二編と他編との異なる点から探ってみると…
二編において梨花が死んだのは注射片手に詩音に襲いかかった結果であり、その死は随分後(数週間後くらい)まで誰にも知られる事がなかった。
…ただし。梨花が当初考えていたように、鷹野や富竹の死の結果、山狗が梨花から目を離すという事は考えにくい。何故かというと山狗や鷹野としては梨花殺害が「終末作戦」の達成目標に含まれていると考えられるからである。(梨花を殺さないと34号に関して内閣の認可が下りない)
つまり、山狗は梨花を園崎邸外くらいまでは尾けてきていた事が考えられる。
広い敷地の奥、そして邸内で争ったために悲鳴や雄叫びが聞こえなかったと考えたとして……ちっとも出てこない梨花を待ち、山狗は邸の外で待ちぼうけを食わされるわけだ。門にゃ珍しくカギもかかってるし。沙都子もそのうちやって来るので、「二人揃ってお泊り」と考えられて、不審を覚えるのは翌日以降になる可能性もある。
やがておそらく、翌日辺りに異変に気付き、詩音が学校行った隙でもついて山狗が園崎邸の家捜しをするかも知れないが…既に梨花の遺体は井戸の底。どこをどう探したところで出てこないだろう。地下祭具殿では沙都子や村長がまだ生きているが、これを探り当てられたかどうかも怪しいところだ。
この段階で、鷹野のもとに届けられるのは「梨花が行方不明」という事実だけだろうと思われる。つまり死は確認できていない。ゆえに政府に緊急事態の発生を申告し、34号の決裁を迫ることはできない。
で、そのまま梨花の死後48時間が過ぎてしまう。
しかし雛見沢の住民達には全員末期発症どころか、暴動の兆候も現れない。
詩音の口から梨花の死が圭一たちによってもたらされ、事件解決。だがこの情報が鷹野達の下へ届く頃には梨花の死から48時間はとうに過ぎている。恐らく。
34号の認可が下るには既に機を逸している。
やがて、梨花の死体が地下祭具殿の井戸より発見される。
雛見沢に変化はなく、大災害に偽装された大量殺人も実行されず、20年後も普通に平和。
さて、こうなる理由についていくつか仮説を立ててみました。
その1
・女王感染者という概念自体が嘘である。
女王感染者の存在について言及しているのは最初の発見者(鷹野の祖父あたりと思われる)、そして研究者の入江です。
女王感染者についての最初の報告は唱和20年1月。未だ戦時下、戦争最高会議の小泉大佐宛になされているものです。
そして入江もまた、“東京”に期待されて始めた自身の研究を継続する事に執心している様子が見受けられます。
つまり――兵器としての優れた運用性の一面として、一般感染者の生死を握る女王感染者、というものに関してのみでっち上げられた、という可能性もあるわけです。
ただし、こういう嘘をついて得られるメリットがあまりなく(いずれバレるし、せいぜいが雛見沢の住民を皆殺しにする理由として役立つくらい)、研究に嘘の報告が混じっていた可能性に関しちゃ考えにくいです。
その2
・梨花の死後、誰かに女王感染者が移った。
空気や経皮でも感染する、との事なので例えば死亡前に(女王感染者としての何かが)詩音に移ったと考えることもできる。
だが女王感染者は古手家に現れているようでもあり、また詩音はすぐに死んでしまう人なので雛見沢を狂わせないための女王感染者としての条件に適合していない、と言える。
詩音からさらに移ってレナが女王感染者になった、あたりならまだ考えられるが…
女王感染者がそうひょいひょい移り変わるとも思えないし、そもそも古手の血統以外にも女王感染者としての適性を持つ人が認められるはずであり、それならば少女一人が死んだだけで2000人を殺さなければならない事態になど発展し得ないし、梨花一人を厳重にガードする必然性もなくなってくるので、やはりこの可能性も低いと思われる。
その3
・梨花は確かに女王感染者だったが、現代の村民達はもう女王感染者がいなくても別に平気だった。
感染症の君臨から長い時間をかけ、感染症に不適合な村民は既に淘汰されていた。
現代の雛見沢村民は、相変わらず外部からの血の流入は少ないままだったが、それでも遠方に旅行したりしたところで症候群の症状が現れる事はほとんどなくなった。
つまりこれは村民は共存の歴史の果てに既に症候群に適応した肉体を持つようになっていた、とみなす事もできる。(無論、現代化が進み迷信から解放された事によってなされた精神の強化、なども一要因として上げることもできるだろうが)
現代の村民達がどこか遠くへ旅行しても症状が出ない事から直接的に考えて、かれらは「女王感染者から長期に渡り離れても症状を起こさない体」を得るに至った、と見る事もできるかも知れない。
つまり、まとめると…
入江が医師としての診察を通じ、様々な村民達の体を調べた結果、確かに女王感染者と一般感染者は存在し、村民達は皆重篤な感染症に侵されていて、それはおおよそL2〜L3と判断し得るレベルでもあった。
しかし、女王感染者と長期に渡って引き離すとか、あるいは女王感染者を抹消したところで、彼らの体に重度の急性発症が現れることはもはやなかった。
その事は村民達が村の外へ出たり、旅行にでかけたりしても症状が現れにくくなった、という結果で証明されていたのだが、入江は気付いていなかった。
だから、梨花が死んだからといって村全体が凄い事になるとか、混乱の拡大を防ぐ為に34号を発動して村を滅ぼす必要など初めからぜんぜんなかった。
…これは結構ありそうだな、と自分では思ってる。
上記の仮説に関連して思い出したのが、終盤の鷹野の台詞。
「明治からダム闘争まで雛見沢は神を見失っていた、それが蘇った」
これはまあ、言い換えると“綿流しらしき惨殺死体の発見から連続怪死事件の間まで、雛見沢には人を祟る神ってやつがずっといなかった”て意味になるんだろうと思うんですが…。
長い刻を経て村民達の体質が変化し、女王感染者の生死に束縛されない適応性を得るに至ったことを、「神がいなくなった」と表現している可能性もあるのかな、と思いました。
要するに、今の村民は誰も神に命を握られていないわけですから。
で。女王感染者の梨花を殺し、そして既に女王感染者のくびきから逃れ得ている村民達をわざわざ皆殺しにすれば……なるほど確かに、鷹野のやってることは確かに神の御技と表現することもできるでしょう。
ただしこいつはあくまでも“一人殺せば殺人者で、大勢殺せば英雄で、全滅させれば神だ”って論法ですけども。
…と、話が逸れました。
で、鷹野は研究者じゃないんだけど、入江と違ってもう女王感染者が一般感染者の生死を握ってるわけじゃない事を、それなりに知ってたんじゃないのかなー、と思う。
祖父あるいは父が遺した研究から、女王感染者の影響力が薄れつつあることをとっくの昔から知っていた、とか。
で…知っていながらもあえてずっと黙っていて、
“梨花が死ぬと皆死ぬ”とか周囲に合わせた嘘をつき続け、
誰一人道連れにできやしない…もはや神失格である少女、古手家の梨花を殺し、
34号の認可を取り付け、
自身こそが神であるがために、その存在証明として村民達を皆殺しにした、とか。
…村人はガス災害で全滅した事になるしね。そして自分も既に焼け死んでる事になってるしね。
「わたしのやった事がどれだけ凄いことかわかるまい!」みたいな台詞も、この解釈ならばまあまあ理解できるかなぁ、とは思う。決して共感はできんが。
綿流し編・目明し編は、詩音の思い切りの良すぎる弾けっぷりの前に、鷹野が人生を費やして臨んだ綿密な祟り殺し計画があっさり崩壊しやがったという極めて珍しいケースなんじゃないのかなぁ、と思う。
さて、次は羽入。
この人は、冒頭の部分がちょっとおかしい気がした。
罪滅し編で殺された梨花は時間遡行をし、そして羽入に訊ねる。
「今は何年の何月何日だ」と。
羽入は答える。
「綿流しの一週間前で、梨花は皆と遊んでて崖から落ちたところだ」と。
いや、これ普通におかしい。何がおかしいって、梨花の死によって一緒に過去に吹っ飛ばされたはずの羽入がどうして日付と状況を正確に把握してるんだろうか。
…日付はまあいい。記憶の整理が得意とか言われてたし、神様的な時間感覚でわかったとしよう。
でも状況を理解してるのはやはりおかしい気がする。皆と遊んでて崖から落ちたってのは、そのずっと前から見てなければさくっと答えられない事だと思う。
ここで考えられるのは、羽入が梨花よりも少し前の時間に戻されている、という可能性だが…それもちょっと考えにくい。
なぜなら、羽入は梨花が過去に戻された時いつもしているという質問を向けられて、一旦躊躇するからだ。自分の方が少し前に戻されていたならば、いずれ目の前の梨花に未来からやってきた意識やら記憶やらが入って、自分にいつもの質問を投げかけることは承知しているはずである。そう躊躇しないだろうし、梨花の言うように過去に引き戻されてこの質問を投げかけるたびに羽入はいつもいつも躊躇している、という結果になるのも考えにくい。
つまり――羽入は“梨花の主観記憶に忠実に従った時間移動をしているわけではない”可能性があると思う。
つうか、羽入の中には、さして隠しもしてないが、梨花と一緒にいたいという気持ちがある。梨花本来の寿命以上に長く一緒にいられることを喜ぶ気持ちもある。その彼女が、時間の迷宮に囚われる梨花にもう百年迷い続けていればいい、と思っててもあまり不思議はない。
羽入が梨花にする助言と言うのは基本的に「期待するな」である。羽入としては梨花が傷つき、精神をどんどん磨耗させてゆくことのみを恐れているとも言える。(梨花が死ぬのはやり直せるのでとりあえず問題ない)これはつまり、梨花が話相手ですらなくなる事を恐れている、と見ることもできる。
羽入は、梨花の意識に従って時間移動をしているとは思うが、主観記憶に従った移動はしてないんじゃないかな、と私は思う。
要するに羽入は梨花がどうやって殺され、どうして殺されたか、またどうすれば防げるのか、などをもうとっくの昔に見出してしまっているんじゃないかな…と思う。
梨花と仲違いするわけにはいかないから、いろいろ空っとぼけてるんじゃないだろうか。
つうか羽入って公式の絵掲示板に出てきたキャラなんですか?
へー、絵の腕あげたなー、と普通に思ったんですが。
さて。祭囃し編では圭一達は暗殺部隊やら鷹野やらの陰謀を防がなければならんわけで。
そうなると何らかの形で“東京”にもメスが入るのではないか…と思われます。
まあ、鷹野や山狗は“東京”に失態をさせたい側の人らしいので、“東京”を直接どうこうしたところでどうにもならんのですが――少なくとも富竹や入江は“東京”側の人間なので、上に要請して鷹野一統を摘出させるくらいはできるのではないか、と思われます。
圭一達としては、本当に症候群に冒されているのなら、入江にどうしたって治療の「三ヶ年計画」を達成してもらわねばならんわけで。その点で言うと、既に方針転換済みである“東京”の助力を得るのは、別にそう間違いでもありません。
となると……圭一達は、雛見沢を長年モルモット飼育場扱いしてきた“東京”を味方につけ、雛見沢を滅ぼそうとする鷹野と戦う事になるんでしょうか。
うわあ何そのスケール。圭一大きくなりすぎ。もう想像できねえ。
<いやまあ一応、石川の温泉旅館について>
えっと…。
ホントに旅行しに来ただけだった赤坂が、奥さん連れて泊まり行ったってのは…。
まあ…。きっとここの事だ…。
http://www.kagaya.co.jp/kagaya/index.html
普通に一流ホテルなので、背景探訪とかに詳しい方以外でも知ってる方は多い事でしょう。
うん…。無粋とは解っちゃいるが、いやまあ、何であのネタが出てきたのか一応説明つけてみるとだな…。
あるところにとっても豪華な温泉ホテルがあってだな…。
そこのオーナーが、若い女性なんだけどな…。
鬼の血を引く一族で、苗字の方に「キ」が入っているという家の人なんだ…。
そして四姉妹だったり、従兄弟が遊びに来てたりするんだ…。
これ以上はリーフに聞いとくれッ。
しかし赤坂も鬼の本拠地をハシゴするとは…。
奥さん連れて地獄めぐりか?
そんな有給の使い方でいいのか?