大石の失踪、その時間について



 祟殺し編にて遺体を掘り起こそうとする圭一が大石より暴行を受け、その死を願った直後に登場するTIPS「車両照会」について、ちょっとおかしいな…と思った点があります。



 大石車からの最後の通信は6月20日20時8分。(興宮署記録)
何の特記事項もない、S号指定もなし、減点もなしという「安全健全好村民」的な誰かの車両のナンバー照会を依頼した後、大石蔵人・熊谷勝也の両刑事は車ごと行方を絶ってしまいます。
 翌21日には小宮山以下の警官達により雛見沢内の捜索も行われますが、結局22日未明の大災害発生まで、両名も車も出てくることはありませんでした。
 彼らは行方不明者のリストに加えられることとなります。




 まず、時間の確認です。
 祟殺し編での大石の最後の登場は、警官か何なのかよくわからない男達を連れ、遺体を掘り起こす圭一の前に姿を現したのが最後です。
 この時間の確認なのですが、
 まず、入江診療所で圭一が身に迫る危機に気づき、窓から脱出、診療所より逃亡を図ったのが…圭一が見た時計によると、およそ六時過ぎ。
 その後圭一は自転車で家まで戻り、確認のため遺体を掘り起こす事を決意。
 シャベルを持ち、ランタンが物置にない事に気づき…自転車を片手漕ぎして遺体を埋めた村境界沿いまでやってきます。
 雛見沢から興宮までは自転車でおよそ一時間ですから、ここまで片道30分ほど。
 圭一の家から診療所までは…ちょっとわかりませんが、学校からはそう離れていないという記述があったので、まあ自転車で30分以内、10分〜15分と言ったところでしょうか。
 と考えると、この時点で7時にさしかかるぐらいの時刻になってしまいます。
 闇の中で圭一はランタンを探し、ランタンからの距離による見当をつけ、昨日と同じ雨の中再び穴掘りを始め、ついてくる足音に一言二言声を放ったり睨み付けたりしています。(まあこの時の足音の正体に関して言えば、恐らくは大石他数名でしょうが)
 そして、「多少は穴が深くなった頃」、完全に日没したらしく辺りは暗黒に包まれてしまいます。
 作業に支障をきたした圭一はランタンを点し、瞬時に大石達に囲まれるわけなのですが…。
 この時点で、恐らく7時15分〜20分にはなっているのではないか、と思われます。
 その後圭一は大石に強要される形で男達に見下ろされながら穴掘りを続け、まったく死体が現れない事に奇妙さを感じつつも、手ごたえの明らかに異なる層まで掘り進み、疲労困憊して掘るのをやめます。
 交代する形で、シャベルを手に穴の中へと降り立ったのは大石の連れの男達。
 男達が圭一の掘った覚えの無い硬い土を掘り進める光景を横に、大石から尋問を受ける圭一は、大石からバケツに汲んだ泥水を都合四度、顔面にぶっかけられます。
 そして大石の尋問に鉄拳制裁が混じろうとする刹那…男達の一人が「汗を拭う仕草をしながら」、大石に、穴が排水管らしきものへと突き当たった事を告げます。
 大石はそれを破壊しようと提案しますが、男達はもう手応えが堅い、これ以上深く掘ることはあり得ない、と語ります。
 そして何やら離れた場所で相談した後、大石以下の男達は圭一を無視するようにその場を去ってしまうのですが…。
 この、大石が去った時間を考えてみます。



 まず、圭一が大石たちと接触後、手応えがおかしくなるまで穴を掘らされるまでの時間ですが…
 直前の診療所のシーンで、監督が穴掘りの時間を「仮に三十分」としています。
 しかしながら叔父の体格を考えると、「身長がですね。…175…もう少しあるかもしれません」「80キロはゆうにありそうだ」との表現が出てきていますので、この縦にも横にも幅のある巨体を、泥の流れる雨の中、満足に埋められてかつ掘り返される心配のないくらいの穴を30分で掘るのは、…なかなか難しいのではないのでしょうか。
 まあ、昨日一度掘った穴という事で、掘るのは容易かったとしても。
 途中で登場した大石と会話したり暴行を受けたり、穴を掘らされている間もまた暴行を受けたり、またそれに加えて、“昨日掘ってないところまで掘り進む”という作業を追加して、…まあだいたい、圭一が音を上げるのが7時40分頃、と仮定するとします。
 そして、大石が圭一に尋問しながらバケツの水を四度ぶっかけて、男達が排水管を掘り当て、これ以上下にあるということはありえない、と判断して大石に告げるまでが…大体、10分〜15分でしょうか。(尋問しつつ水を四度ぶちまけるくらいなら5分でも可能ですが、ちょっと5分くらい掘ってみてすぐさま、これ以上下に何かが埋まっていることはありえない、と判断するケースは稀でしょう)
 となると大体、8時絡みにはなってしまう計算です。
 その後、大石は男達と会話をし、圭一から離れたところで何やら相談、圭一を無視してその場を去ります。
 これがおよそ8時ごろ。




 …と考えてゆくと、「20日20時8分に行われた車両照会」というのがどうも、怪しく見えてきます。




 あの晩の圭一の目撃が最後として大石が消えたとして、もっとも疑われるべきは……当然、一緒にいた男達です。
 彼らは警官かとも考えられますが、大石が自身の冗談に笑わない彼らに対し睨み付けて笑う事を強制したりと、表向き飄げた大石の態度にしては少々、珍しい部分も見てとれます。
 また、彼らの大石に対する口の訊き方にも、目上の人物/上司に対する敬意が含まれた結果の丁寧さというよりは、むしろ他人として心理的距離があるもの、といった方がしっくりくるものが感じられます。
 そもそも、その直後の車両照会を最後に大石・熊谷が行方を絶ったというのなら、熊谷勝也はその頃どこにいたというのでしょうか。
 死体を掘り返すらしい圭一の確保に同行していず、大石と別行動を取っていたというのなら…熊谷の取る/あるいは任される行動は、ある程度限定され得るようにも思います。
 最後の連絡が連絡だけに、翌21日に行われた大石車の捜索もまた、捜索地点の中心はある程度絞られざるを得ません。



 つまり何が言いたいのかというと。



 圭一を尾けていた大石は、診療所に入ったまま一時間出てこない圭一が「口封じ」されることを恐れた。

 ↓

 大石、診療所に電話する。

 ↓

 入江は圭一の身柄を確保しようとしていたが、気づいた圭一は電話の隙に逃げ出した。

 ↓

 診療所窓から逃げ出した圭一を目撃、大石は入江が圭一に何らかの行為に及んだと考え、入江を締め上げる。
 睡眠薬入りの紅茶などをその凶行の証拠として押さえる。

 ↓

 入江、「圭一が北条鉄平を殺して埋めたと告白した」と白状し、自身の行動を説明。
 「精神異常の疑いが強いため拘束しようとした」と弁解。

 ↓

 入江との会話の内容から言って、圭一は遺体を確認するかも知れないと判断。
 精神異常者の可能性がある圭一の拘束用に、診療所スタッフ(あるいは山狗)の同行を強要した大石、シャベルを人数分借り、逃げた圭一を尾行する。
 自宅でスコップを手に、村境へと雨の中向かう圭一。

 ↓

 圭一、遺体を埋めた場所らしき地点に到達、シャベルを振るって土を掘り起こし始める。
 大石登場。
 穴を掘るが遺体は出てこない。
 圭一を拷問するが何も吐かない。
 そもそもこんな雨の中遺体を改めに向かった以上、圭一が嘘をついているとも思えない。

 ↓

 圭一から離れたところで、診療所関係者達と語る大石。
 精神異常で妄想と現実の区別がつかなくなった、という線で落ち着く。
 殺人犯でなければただの紛らわしい精神異常者、そんな人に用は無いので無視。放置。

 ↓

 帰り道、不意を打たれて男達に消される大石。

 ↓

 ほぼ同時刻、車の中にいた熊谷も別の連中の手にかかる。

 ↓

 車両の無線を使用し、二人を襲った場所よりもはるか遠く離れた…村の奥あたりに在住するごく普通の村人の所有する車、そのナンバー照会を依頼しておく。

 ↓

 車ごと二人の存在を消す。

 ↓

 翌日、警察が二人を捜しに来る。

 ↓

 真っ先に向かうのは、大石が最後に車両照会を行おうとした車の持ち主の元。

 ↓

 車の持ち主は昨夜車を置いておいた場所を話すが、別に話におかしな点はない。

 ↓

 その(見当違いの)場所を中心に大石車を探し回る警官たち。当然見つからない。




って流れなのではないか、と考えます。



 「なぜ死体が埋めた場所になかったか」についてですが、これはもしかしたら「なぜ大石達が消されたのか」とリンクしているのかも知れません。
 つまり、圭一は埋めてはまずい場所に死体を埋めてしまった。
 彼がそこに死体を埋めたということと、そこがほじくり返されると困る場所だということを二つながら知る人物がいたため、死体はよそへと移された。
 そして圭一は入江に手を下され、精神異常者としてそのまま行動の自由をなくされるはずだったのだが、間一髪逃げられてしまった上、また既に圭一は警察に目をつけられていた。
 圭一は遺体を掘りに行き、結果として、掘り当ててはいけないものまで大石の目にさらすこととなった。
 幸い単独で捜査していたらしい大石/熊谷は消されることになった。
 始末したのち、実行犯の入江診療所関連が疑われないよう、警察無線を用いて疑いを他所へ向けさせておいた。


 とまあ、こういう感じなのではないでしょうか。



 うーん、まあ別に、あの警察無線をしたのが本当に大石でも構わない事は確かなんですが、仮に本当に大石が車両紹介をして、その応答があるまでの合間にその身に何かがあったと仮定した場合、車両照会をされた車の持ち主ってのに翌日、確実に捜査の手が及んでしまうわけですし。
 また、忽然と消えた大石車は誰かにどこかに隠されたと見るしかないわけですが、その誰かが車をどこかに隠す間も、大石車に対する本部からの応答要請/照会の回答通達要請がずっと車載無線を通じ行われていた可能性があるわけで、つまり要するに、「大石がどの辺で応答しなくなったか」の目星は既に警察につけられている、という情報が、犯人側に漏れていてもおかしくはないわけです。
 ここまでリスクを犯していると理解していながら誰かの存在を完全に消し去ろうと思うのは……まあのっぴきならない急な事情があったとかなら別ですけど、難しいのではないか、と思います。


 本部に車両照会を依頼したほんのわずかな合間に、車に乗っていたであろう大石/熊谷の両刑事が応答しなくなる、ってのは流石にあり得ないだろうな、と思います。
 例えば、車内に高濃度のホスゲンをこっそり注入し二人とも窒息死させるなどした場合でも、即死するわけではありませんから、手近な無線を使うなり何なりでダイイングメッセージのひとつも残せるわけです。
 車両照会をしてもらってる間に外に出て車両を調べ、その間に襲われたなどと考えた場合でも、どちらかは車に残るのがまあ普通でしょう。




 こうやって考えてゆくと……翌朝の入江の死は、口封じのようにも見えますね。