竜宮レナ考察

*** 竜宮レナ考察 ***



 さて。
 私の推理にはレナがてんで出てきやしねえじゃねえかという事に気づいたため、
 今日はレナについての考察をしてみたいと思います。
 彼女がスパークするのは主に鬼隠し編なので、ああいう行動に至る経緯・背景・理由などについての考察をしてみたいと思います。


 まずレナの主張から整理してゆきますと、



レナの訴えるオヤシロ様の症状について:


・村を逃げ出すと発症
・最初は「オヤシロ様」が外をついてくる
・次第に「オヤシロ様」は屋内にまでついてきたり寝床に立ったりもする
・「オヤシロ様」に対してあやまらないといけない
・雛見沢へ戻らないといけない


 だいたいこんな感じです。


 小学校に上がる前にレナは茨城へと引っ越してしまいます。
 レナは上のような訴えを、小学校くらいにはもう持っていたようですね。
 「小学生の子供が泣いて元の町に帰りたいと言ってもどうにもならない」と言っていたので、その頃既に雛見沢へと戻りたいという要請を親に対して出してはいたのでしょう。
 「新しい環境になじめなくて、心の中のオヤシロ様に帰れ、帰れと言われ続け、現実との板ばさみの中でずっと過ごす事になる」と語っていましたから、茨城で年月を過ごすうちに症状は相当に重くなっていたものと思われます。
 で、昭和57年。レナは親しかった同級生男子三人にプールの裏でバットで殴りかかり重傷を負わせ、そのまま校舎のガラスを破壊し一週間の謹慎処分を受けます。
 負傷させられた男子三人、うち一人は片目に重い後遺症が残るほどの傷を負わされたにも関わらず、しかし彼らは揃ってなぜか表沙汰にはしたくない態度を見せます。


 精神科医のカウンセリングを受け、レナが口走った単語の中に「オヤシロ様」が出てきます。


 直後、一家は雛見沢へ転居。
 レナは魅音や悟史、沙都子や梨花の通う雛見沢分校へと通学することになるんですが…。



 まず、茨城の傷害事件から考察してゆきます。

 人気のないプール裏で普段から親しかった男子三人をバットで滅多打ちにするレナですが、ここまではまあ、両者間にトラブルがあったものと推測することができます。
 バットという凶器を手に三人に重傷を負わせているくらいですから、それこそ少女であるレナに対し人気のない場所で少年三人が力ずくで何らかの行為に及ぼうとした、という見方をするのが自然でしょう。
 怪我の度合いから言ってもやりすぎの感はありますが、そもそも男子三人を少女が一人でバット振り回してことごとく怪我を負わせられること自体が不自然ではあります。
 三対一という状況で、レナは逃げられないかも知れませんが、男子三人にはレナが凶器を振り回した段階で誰かしら逃げる機会があったはずです。
 男子達の供述である、「普通に話していていきなりバットで殴られた」はこの場合成立しないでしょう。普通に顔を会わせて普通の距離を取り「普通に」話してた相手が急にバットを手に取り振り上げれば、それこそ「普通なら」三人ともに重傷を負わされる事態にはなかなか発展しないはずです。
 レナを取り押さえようとしたとか、完全に不意を打たれたとか、抵抗できない理由があったとか、男子達が語った以上の相応の理由がそこには必要になってきます。
 加えて、直後のレナの行動。
 校舎へと向かい、片っ端からガラスを破壊して回っています。
 なぜここで校舎へ向かったのか、また何故破壊対象がガラスなのか。
 この意味のなさそうな破壊行動には一体どのような意味があったのでしょうか。


 ここでちょっと話が飛びますが、
 目明し編で沙都子殺害直後、詩音は背後に立つ存在に対しひとつの結論を出します。
 曰く、「私の罪をずっと見つめ続けていた私自身」と。
 

 茨城にいるレナが、レナの言う「オヤシロ様」の症状に取り憑かれていたとして、
 そして、殺人という犯罪に手を染めてしまった詩音と同じ様に、同級生三人をバットで殴るという“罪”を犯すに至り、
 …レナもまた、詩音と全く同じ結論に至ったとしたらどうでしょうか。


 つまり、罪を犯し初めて、ずっと後ろをついてきて自分を(自分の罪を)見ていたのはオヤシロ様でもなんでもなく、自分そのものだったと気づいた。
 そしてふと窓を見れば、ガラスに映るのは自分の姿。
 故に、手に持っていたバットで校舎中の窓ガラス……ガラスに映る自分の虚像を破壊して回っていたのではないでしょうか。


 レナは自分と全く同じ姿をして背後をついてくるその存在を、「オヤシロ様」と呼称している可能性がある、と考えます。




 次に、雛見沢転校(帰還)後のレナについて考察してみたいと思います。
 この頃のレナについては、目明し編でも少しだけ語られていますね。
 というか何ですかあの停留所のシーンは。怖すぎです。…と、話がそれました。
 魅音と認識して詩音に接触するレナ。転校したてのレナは、「経験者」の自分が悟史より相談を受けた、と語ります。
 夢見が悪いと訴える悟史に「足音」の症状をあらかじめ話しておき、それが深刻化するようなら自分に相談しろ、という布石の結果、転校生のレナが重い相談を受けたという流れらしいです。
 悟史は自分が妹の存在を重圧に感じ、雛見沢から逃げ出したく感じていることをレナに告白します。
 この相談に対しレナがどう答えたかは語られていませんでしたが、レナが傷害事件の後に雛見沢へ帰ってきたことと自分を襲った症状を考えるとやはり、最低、雛見沢を捨てて逃げない方がいいという忠告はしたのでしょう。
 沙都子の誕生日プレゼントを買うという名目で10万近い金を貯めていた悟史。
 綿流し(6月20日)の3日後、23日が沙都子の誕生日です。


 19日夜、魅音として悟史に電話をかけ、沙都子を祭りに連れてゆくよう頼まれる詩音。
 その際、レナの言っていたように悟史は雛見沢を逃げ出す気持ちが「あった」事を告白しますが、しかし「もうその気持ちはないのにまだ許してもらえない」と語ります。
 そして、詩音に「祟りを信じるか」と尋ねる悟史。
 翌20日深夜には北条玉枝が殺害され、悟史に容疑がかかります。
 さらに翌21日。悟史は詩音と興宮で遭遇し、ぬいぐるみの予約をします。
 この際、「バイトの前に寄り道」と悟史は語っていましたが…。
 なぜこの段階で、目標額は貯め終えてもう辞めたと言っていたバイトを再び始めるのかはよくわかりません。ウソをついている、にしては答えに不自然さもないし…。
 そしてそのまま興宮署で任意同行を受け、詩音が爪をはがされて寝込んでいる間の23日、沙都子の誕生日、貯金を全額引き下ろしている姿を最後に、悟史は姿を消してしまいます。
 悟史が予約をしたぬいぐるみはショーウィンドウから消えていました。



 仮定の話ですが。
 沙都子へのプレゼントを買うためのバイトを、目標金額に達したことから一度辞めた悟史が、再びバイトを始めたことをレナが知った場合、レナはどう思うでしょうか。
 少なくとも19日夜、悟史の頭の中に雛見沢から逃げ出すという考えはありませんでした。しかし、レナのように雛見沢へ戻ってきたら症状が消えた、というような事は起こらず、逃げ出す考えをなくしても症状に変化が訪れなかったことは事実のようです。
 「…僕は、背中の人に囁かれる。」のTIPSのあの日記が悟史のものだったと考えた場合、悟史は叔母の殺害とぬいぐるみの購入を企図していたことになりますが、それでもやはり、悟史が21日にバイトに出かける理由は見つからないままです。
 
 ……つまり何が言いたいのかというと。
 レナは、妹の重圧に耐えかね、殺害容疑をかけられ、自分のように症状が消えることもない悟史が、“未だ雛見沢から逃げ出したいと心の底で考えている”と判断していた可能性があります。
 その場合レナがとりそうな行動を、昭和58年鬼隠し編の圭一に対する態度から拾ってみますと…。


・20日以降、叔母が死んで食事に困っている北条兄妹におかずを差し入れる
 (やりそう)
・悟史に「もう逃げたいなんて考えたりしていないよね?」とか
 「ちゃんとオヤシロ様に謝らないとだめだよ?」とか釘を刺す
 (学校休んじゃ嫌だよ?の異なるバージョン)
・バットを持って登下校を始めた悟史を追い回し、“相談”を迫る
 (そのまんま。相談…というかこの場合、気持ちを正直に言え、て迫るんでしょうけど)


 まあ……ここまでまるっきり同じ行動を取るとは限りませんけども。(笑)
 少なくとも相談の経緯から言っても、レナは、悟史の「オヤシロ様に対する罪」を直視させる/あるいは直接断罪してしまうような行動には出るかも知れません。
 ただもちろん悟史には、圭一同様に、これらの行動がレナの親切心ではなく害意または悪意にもとづくものとして受け取れてしまう可能性があります。
 故に疑心暗鬼を起こし、事件後、失踪直前もバットを持って登下校するようになり……。
 そして、昨日ちょっと書いたように、沙都子の誕生日、悟史は興宮へと向かい、レナは悟史が逃げないように監視するためがっちりストーキング。
 目標額を過ぎてもバイトを続けていた疑わしい悟史が貯金を全額下ろし、ちゃんと予約していたぬいぐるみを買ったのを見届けたところで…レナは安心して監視を解除した、なんていう可能性もあるわけです。
 そしてレナの監視が解けたタイミングで、悟史を襲う瞬間を今か今かと待っていた誰かが即座に襲い掛かり、悟史をぬいぐるみごと「隠して」しまう、と。


 翌58年、転校してきた圭一の異変を知るや、執拗に干渉を始めるレナ。
 この態度と、自分はまだ転校してきたばかりなのに、夢見が悪いと話す悟史に対し「相談して」と奇妙な話を持ちかけておく57年のレナの態度は、近しいものがあるように思います。
 …まあもちろん、自分と同じ症状を呈して困っている人だから他人事とは言えないな、助けてあげよう力になってあげよう、とレナが親切心を起こした…なんて理由付けをすることもできるわけなんですが、それにしてもレナのオヤシロ様信奉/畏怖は度の過ぎている部分があるように思います。単語を耳にしただけで変貌するというのはかなり異常というか、もはや恐怖症の部類に入ると言ってもいいでしょう。
 さて、なぜここまでレナが彼らに肩入れするのか、を少し考えてみたのですが――


 鬼隠し編で、レナは「次はレナの番…かな。」と弱気ゼリフを漏らしています。
 目明し編で「帰ってきたらオヤシロ様の症状はぴたりとやんだ」と話しているにも関わらず、です。
 加えて、自身はオヤシロ様の症状に長年悩まされ、ついにこの地に戻ってきてしまったという過去を持っています。
 さらに言えば、鬼隠し編で圭一に家の中に入ることを拒絶されたレナは、家の外に佇んでずっと「ごめんなさいごめんなさい」を繰り返しています。
 これはレナ自身が症状に襲われている事の表れではないでしょうか。



 つまり何が言いたいのかというと。
 …レナは内心、雛見沢を離れたいという気持ちを抱えているのではないでしょうか。



 それゆえにレナは、オヤシロ様の祟り関連に人一倍敏感であったり、オヤシロ様の怒りに触れた可能性のある人(消えた人など)に対しどこか底冷えた言動を示したり、オヤシロ様の怒りに触れるような事を人一倍忌避したりしているのではないでしょうか。
 悟史や圭一に肩入れするのは、自分と同じ気持ちを抱えながら、自分が破ることの結局できなかった禁忌を破ってしまおうとする彼らへの同族嫌悪にも似た自己否定的な感情に基づく行為なのかも知れません。
 圭一は別に雛見沢から逃げ出したいとは言っていませんが、土地や人自体を薄気味悪く思い始め、抱く感情も悪化させていました。出て行くという結論に辿りつくのはそう遠くない話だったでしょう。
 残酷な言い方ですが、自身が抱く恐怖を紛わすには誰かに恐怖を与えるとか、ぶっちゃけ別の人物に恐怖を味わう役を押し付けるのが一番手っ取り早いのは確かです。
(学校や会社でいじめをやるような連中を見ているとよくわかりますね・笑)



 う〜ん、あんまりこういう考え方はしたくないのですが……。


 レナは既にある程度経験し、また更に自身へと及ぶかもしれない「祟り」に対する恐怖から、自分以上の「裏切り者」を見つけ、狩り出そうとする気持ちを抱いている。


 と、考えます。



 レナがいくつかの事件の犯人だ…とは思わないんですが、異常性に“見せかけた”レナの底意(悪意)が、事態をややこしく、そしてより悪質にしているのは確実だろうなという気がします。